オールドスクール、EDM、ジャズ……韓国ヒップホップの多様性を感じる新作6選
Dok2 – VENOM
韓国ヒップホップシーンで最も成功したラッパーに数えられるDok2(ドッキ)。高級外車を何台も乗り回し、豪華なライフスタイルをあけすけに見せびらかすその様はまさしく“ヒップホップドリーム”だ。トラップキングでもある彼は、トレンドが激しく移り変わっていくシーンの中で今回もぶれることなくトラップ全開。この「Venom」という曲は、米マーベルの超大作映画『ヴェノム』のタイアップソングとして公開された。マーベル初の悪役ヒーローであり、善と悪が複雑に絡み合った魅力を持つヴェノムのキャラクターを元に「英雄と悪党、時として判断がつかない」とヴェノムが抱える内面の葛藤を表現している。マイナーコードのダークなサウンドが、映像のダイナミックさを引き立てる。
JaeDal – Tree
最後に紹介したいのは、詩的な感性と高い音楽性で注目されている新鋭ラッパーJaeDal(ジェダル)の「Tree」。バンド出身の彼は、作詞・作曲・編曲はもちろん楽器演奏からミキシングまですべての工程を自身の手でこなす。作品ごとにサウンドを進化させ続けるだけでなく、その高い作詞能力からは「韓国ヒップホップシーン屈指のリリシスト」との異名も持つ。この曲で描かれた「俺は木のように生きたい。俺が根付いたところが俺の中心だ。声に込めた真意を君の心に植え、末長く君と留まっていたい」という文学的な表現には思わず唸ってしまう。マダガスカルで撮影された壮大なミュージックビデオも必見。サウンドから溢れるアフリカンなフィーリングと映像がマッチし、まるで一編の短編映画を観るようだ。
このように韓国のヒップホップはアーティストごとに個性が色濃く出ているため、幅広いリスナー層にアプローチできるところが魅力だ。もちろん大まかなトレンドの流れというものはあるが、とりわけ競争や世代交代の激しい韓国ヒップホップシーンの中で長く生き残っていくためには、流行に乗るだけでなく各自の持ち味を生かしていくことが求められる。今回紹介した6組以外にも、様々なアーティストの個性をぜひ探ってみてほしい。
■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。Twitter