米津玄師、水カン、堀込泰行……山田智和監督のMVになぜ心揺さぶられる? 映像手法を考察
米津玄師「Lemon」のMVが『MTV VMAJ 2018』の最優秀ビデオ賞を受賞した。TVドラマ『アンナチュラル』の主題歌として作られたこの曲は米津にとって初のミリオンヒットであり、MVはYouTubeの再生回数が1億9千万回に迫るというバズを巻き起こした。
また、この9月から10月にかけて行われた『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』のTVCM。渋谷の街頭で、Zeebra、向井太一、ちゃんみな、ゆるふわギャングといった音楽家たちが次々と「音楽って誰のものだっけ?」に始まる刺激的なメッセージを次々と投げかけるという内容は、大きな話題となった。
あるいは、堀込泰行の新曲「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」はどうだろう。東京の街を走るバスに乗ったのん(能年玲奈)の表情をひたすら捉えたMVもまた、大きなインパクトを与えた。
これらすべての作品を監督したのが山田智和である。1987年東京生まれ、水曜日のカンパネラ、サカナクション、Base Ball BearなどのMVを手がけ、TVCM、ドラマなど、今もっとも売れっ子と言っていい31歳の気鋭の映像作家だ。
山田の作品で際立っているのが、都市を舞台に、人間の肉体の躍動と感情のざわめきを小細工なしに描く骨太な作風だ。たとえば米津玄師「Lemon」では、ドラマの内容に寄り添ったデリケートでさりげない映画的な演出を施しつつ、ダンサー吉開菜央の躍動する身体性で生と死の狭間で揺れる登場人物の心情をドラマティックに描く。米津の新曲「Flamingo」のMVも山田が手がけているが、ここでは都市の闇を徘徊する米津自身の肉体のゆらめきが楽曲の世界観にリアリティを与えている。
また「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」は、刻一刻と変わっていくのんの表情だけを、ほとんど同一アングルで執拗に追う、ただそれだけの内容なのに観る者の心を激しくかき乱すエモーショナルな作品になっている。この表情を作れるのんの女優力も凄いが、その表情を見事に引き出した監督の演出力が際立つ一作だ。
またKID FRESINOの「Coincidence」のMVは、大雪が降り積もる夜の新宿の街を歩きながらラップするKID FRESINOの姿を真正面から捉えただけの内容だが、その映像的なキレの良さは異様なインパクトがある。滅多にない東京の豪雪を逃さず作品にした決断力(監督によれば、当日の朝に撮影を決めたという)や、クルマも人通りも少ないとはいえ車道の真ん中でゲリラ撮影を決行した実行力、流氷の場面で一気に世界が広がるラストの発想力まで、監督のセンスの良さが結実した見事な作品だ。
ゆずの「うたエール」は、KID FRESINOとは対照的なスケールの大きな作品で、ゆずが路上ライブを始めた横浜・伊勢佐木町の街に戻り、2018人の“新メンバー”と共に「うたエール」を歌い練り歩くという映像だが、横浜の街の片隅の、ほんのちっぽけな日常の「歌」から始まったゆずの音楽が、街を歩くうち、より開けた大きな世界に羽ばたいていくという構造はKID FRESINOと通底している。その過程が2人+2018人の肉体と声によって鮮やかに描かれるのは見事だ。