米津玄師、水カン、堀込泰行……山田智和監督のMVになぜ心揺さぶられる? 映像手法を考察
楽曲の面白さとコムアイのアイコン性で人気を集める水曜日のカンパネラは新曲を出すたびに作られるMVでも話題を集めているが、山田はそのうち7曲のMVを手がけている。モンゴルロケで100人の子供たちと100頭の馬と共に撮った「メロス」、東京の夜で遊ぶ姿を捉えた「ナポレオン」、ボウリング場で踊る姿を収めた「アラジン」など、いずれもコムアイの躍動する身体に宿る生命力を正攻法で描いた作品になっている。コムアイの本能的な表情や動きのクセが、お洒落なファッションフィルムを気取って撮るよりも、彼女らしい生命力が出やすいのだ。
なかでも特筆すべきは「ツチノコ」で、ここには山田にとってもうひとつの大きなテーマである「都市=東京」へのこだわりがうかがえる。聖火に見立てた花束を持って街を走るコムアイは聖火ランナーという設定。彼女が走るのは2020年の東京オリンピックまでに壊される予定の東京の様々な景色である。それは山田が子供の頃から遊び馴染んできた路地の薄暗がりであり、それが都市再開発の名の元に壊され失われてしまうことへの悲しみと寂しさとささやかな抗議が、山田の作品の根底には流れている。
山田が自身の代表作のひとつとして挙げるサカナクションの「years」は「都市の感情」をテーマに、渋谷の地下から立ち上ってくる様々にこんがらがったエモーションが、古いものが壊され新しいものが生まれる過渡期の東京を駆け巡る。「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」で、バスの車窓から東京の街を眺め涙するのんに去来するのも、そうした喪失の感情なのかもしれない。
山田監督の初期の代表作に挙げられるのが、2013年に作られた2本の短編作品である。CREATIVE AWARD 2013グランプリを受賞した「47seconds」とGR Short Movie Awardグランプリを受賞した「A Little Journey」だ。渋谷のスクランブル交差点の真ん中で舞い踊る女子高生を描いた「47seconds」、放課後の街をスケボーで走る少年を描いた「A Little Journey」も、若い肉体が躍動のままに大きな世界へ飛び出していくさまを小細工なしに捉えることで、観る者の感情を揺さぶる。そのありようは確かに山田の原点であると思わされる。