でんぱ組.inc 夢眠ねむ、グループ卒業と芸能界引退へ “美しい終わり方”にむかう一貫した姿勢

 でんぱ組.incの夢眠ねむが、10月13日、2019年1月7日に行われる日本武道館公演をもってグループを卒業、さらに3月末には芸能界を引退することを発表した。夢眠ねむは2009年6月にグループに加入。“ねむきゅん”の愛称で親しまれ、グループが拠点を置く秋葉原独自のオタク文化から文芸やアートまで、あらゆるカルチャーへの造詣を生かし、幅広い活動をしてきたメンバーだ。

夢眠ねむ『夢眠時代』(通常盤)

 夢眠ねむは自身のTwitterに手書きのコメントを掲載して卒業と芸能界引退を報告。その中にはこの決断が「長い時間をかけて決めたこと」であることが記されている。でんぱ組.incの活動を長年に渡り見届けてきた音楽ライターの小山守氏に話を聞くと、今回の発表に驚きはありながらも、「とうとうこの時が来てしまったのか」との思いが強かったことを明かす。

「毎年7月に行ってきた生誕イベントが去年で最後となり、同月に自身の声をサンプリングした「VOCALOID4 Library夢眠ネム」によるボカロアルバム『VOCALOID 夢眠ネム』がリリースされました。その中の一曲『あるいは夢眠ねむという概念へのサクシード』では〈夢眠ねむは概念になる〉と歌われていました。卒業・引退発表後に公開されたインタビューでも語られていましたが、ねむさんは以前から“夢眠ねむは一つの作品である”ということをよく言っていて、“終わりにむかって活動している”というようなことも言っていました。そういう意味では、昨年に自分の本をたくさん出版して、ボカロを出して、さらに今年の11月に集大成的な初のソロアルバム『夢眠時代』のリリースと大規模なライブイベント『夢眠祭』を開催する、というような近年の流れは、その意志が貫かれたものだったのだなと改めて感じます。そういう風に、生誕イベントがなくなって、11月のアルバムとイベントもすでに発表されていたので、“ねむ推し”の人たちはある程度覚悟していたようです。それでもやはり、卒業・引退が現実になるとショックでしたけど」

 昨年まで活発なソロ活動を行い、今年は2枚のシングルリリースや長期にわたるライブツアーなどで、でんぱ組.incの活動に集中していた夢眠ねむ。グループは昨年8月の最上もが脱退後、12月に新メンバーの根本凪、鹿目凛を迎えた7人での活動をスタートし、新体制が軌道に乗ってきたタイミングでもあった。夢眠ねむはグループの中でどのような役割を果たしてきたのだろうか。

「ねむさんはセンターポジションではないけれど、グループの象徴とも言える人。“お母さん”と表現されるような面倒見がよく頼れる存在で、メンバーにとっても精神的な支柱です。頭の回転が早いのでトーク力に秀でていて、でんば組.incのトークの面白さはねむさんによる部分も大きい。インタビューをしていても、ねむさんはこちらが使いたくなるような発言を残してくれるんです。肝になること、引きの強い言葉、見出しになるようなことを言ってくれる、言葉選びのセンスがいい方だと思います。さらに、わちゃわちゃした雰囲気を作り上げていたのもねむさんなので、彼女がいなくなるのはグループにとっても痛手ではあるなと。しかし、新メンバーの根本さん、鹿目さんが今後グループにより慣れて、それぞれのキャラを存分に発揮することで、新鮮な面白さをもたらしてくれることを期待しています」

 新メンバーの一人である根本は、加入前から夢眠ねむに憧れ、“ねむオタ”としてもファンの間で知られていた存在だ。根本をはじめ、多くのアイドルの憧れでもあった夢眠ねむの卒業がアイドルシーンに与える影響について、小山氏は次のように語る。

「ねむさんに憧れていた子がでんぱ組.incに加入したという出来事からも、次の世代にアイドルシーンが受け継がれる時がついに来たのだなと感じます。ねむさんと親交のあるアーバンギャルドの松永天馬さんは、ねむさんのことを『テン年代アイドルの象徴だった』と表現していて、そのとおりだなと思いました。ネット、テレビ、ラジオ、本……様々なメディアを使って、大仰に言えばポップカルチャーの可能性を広げる活動をしてきた、まさに今の時代のアイドルです。そういう方が2010年代の終わりに卒業、引退することが象徴的というか。次の世代にバトンタッチするタイミングだということを、ねむさん自身も皮膚感覚として感じていたのかもしれません」

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