Zeebraなど出演で話題の都市型フェスCMはどう生まれた? 映像作家・山田智和インタビュー
メッセージがあればエッジが効いた表現も伝わる可能性がある
ーー映像の世界を追求しつつも、他のメディアを使った表現の幅を確保しておく、と。山田さんがMVを手がけてきた、サカナクションの山口一郎さん、水曜日のカンパネラのコムアイさんも、そういうタイプのアーティストですよね。音楽を軸にしながら、様々なメディア、テクノロジーを使った表現を続けていて。
山田:山口一郎さん、コムアイさんから受けた影響はとても強いですね。サカナクション、水曜日のカンパネラと仕事を続けられているのはラッキーだし、これからもずっと呼ばれる存在でありたいと思います。彼らを見ていて、僕自身も、もう少し前に出たほうがいいのかなと感じることもありますね。僕が関わらせてもらった作品には、何千万の予算で作ったCMやドラマもあるし、10万円くらいで制作したMVもあって、それが同列で語られているのもおもしろいなと思うんですよ。米津玄師くんの「Lemon」のMVで僕のことを知ってくれた人が、『RED BULL MUSIC FESTIVAL』のCMを見ることもあるだろうし。ドラマを見 てくれた人が、Kid FresinoのMVを見てくれたり。そうやってクリエイションがつながって、いろいろな垣根を超えていけるのもおもしろいですよね。
ーーこういうエッジの効いた企画のCMが、地上波のテレビで放送されているのも興味深いです。ふだんテレビで観ることが少ないSurvive Said The Prophetやゆるふわギャングがいきなりゴールデンタイムのお茶の間に登場するのもおもしろいなと。
山田:いいですよね(笑)。そこはクライアントの意向もあるのですが、僕自身もテレビCMには可能性を感じています。テレビCMは大人数に伝えることが前提ですが、それはすごくいいフォーマットだと思っていて。メッセージがしっかりしていれば、エッジの効いた表現であっても、伝わる可能性はあると思うんです。そういう機会がなくなっていくと、作り手はどんどん行き詰るような気がします。みんなが歌える曲が生まれなくても、『NHK紅白歌合戦』が貴重なコンテンツとして存在しているのも、そういうことだと思うし。
ーーインターネットの場では、セグメントごとに刺さるコンテンツを作ることが良しとされているわけですが……。
山田:それはとても喜ばしいことであると同時に、今後はそれも窮屈になってくるでしょうね。テレビCMのように窓口が広いメディアのほうが表現として強いという場面が出てくると思います。3年前は逆だったんですよ。ターゲットを絞って、ウェブでバズらせることが主流だったんですけど、細分化が進み過ぎて、クリエイティブの方向も変わってきたと思います。山口一郎さんや、米津玄師さんなどもそうですが、しっかり掘り下げた表現ができる人たちだし、しかも大多数の人に伝えることを諦めていないんですよね。そういう勝負ができる人は、人間的にも素敵だなと思うし、アートだなと思います。
ーー確かにそうですね。それにしても山田さん、音楽に対する愛が本当に強いですね。
山田:映像と音楽は仲がとてもいいと思うんですよ、単純に。MVだけじゃなく、テレビCMにも音楽が必要だし、映画を作るときも音楽はすごく大事で。いまのシーンには才能のあるアーティストが多いので、どうしたらたくさんの人に届けられるか常に考えているし、メジャー、アンダーグラウンドに関係なく、好きなものをきちんと作っていきたいですね。その中で、しっかりと共犯関係を築けることが表現として健康だと思います。
ーー最後に『RED BULL MUSIC FESTIVAL』に期待することを教えてもらえますか?
山田:こういうお祭りごとは、1回きりではなく、5年くらいのスパンで観たいですね。このフェスは都市計画のひとつになるほどの大きいプロジェクトだと思うんですよ。街のなかでフェスを開催することから始まって、将来的にはカルチャーが街を作るところまで持っていきたいというか。ここ数年の東京は再開発がさらに進んで、どこに行っても同じような景色になってますよね。いい裏路地や古いお店がどんどんなくなって、同じようなテナントが入っている商業ビルばかりになって。そうではなくて、カルチャーが生まれる場所を残していったほうがいいし、そういう場所を作ること(残す)もカルチャーの方からできると思うんです。そういう意味でも意義深いフェスですよね、『RED BULL MUSIC FESTIVAL』は。 この場所でライブやったら面白いとか、音楽流したいなとか、つまりは現代の「お祭り」にちゃんとしたい。できれば来年以降も続けていただいて、映像監督としては、「このフェスのティザー映像を観れば、いまの音楽シーンと映像クリエイティブがわかる」というのが理想ですね。
(取材・文=森朋之/写真=三橋優美子)
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『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』公式サイト