亜無亜危異、“反逆のアイコン”がパンクシーンに与えた衝撃 不完全復活に至る激動のバンド史を解説

亜無亜危異、激動のバンド史

 1986年にマリが事件を起こして逮捕され、4人になったアナーキーはTHE ROCK BANDと改名。86年、87年と2枚のアルバムをリリースした。ブルースロック的な色合いが濃くなったことで後期よりも音の見せる景色が広がり、とりわけ五木寛之の短編小説からインスパイアされて作られたという1987年の2ndアルバム『四月の海賊たち』は歌詞も以前よりずっと練られ、粘り気のあるグルーヴは当時の数多の日本のバンドをまったく寄せつけない最強レベルに。それはもう日本ロック史に残る傑作と言っていい完成度だったのだが、メンバーそれぞれの活動もこの頃から活発になり始め、その後バンドは活動休止状態となる。

 それから約8年。1994年にはアナーキーとして2夜限りの再結成ライブを行ない、その模様を丸々収めたライブ盤『ANARCHY LIVE 1994』は「これ1枚でアナーキーがわかる」と言えるような傑作に(「東京イズバーニング」も「タレント・ロボット」もピー音なしで収録された)。また1996年にも1夜限りの再結成ライブを赤坂BLITZ (現:マイナビBLITZ赤坂)で行ない、自分を含むかつてのファンたちを熱狂させた。そして翌97年には茂、伸一、寺岡の3人に当時WRENCHのドラムだった名越藤丸を加え、ラウドなデジタルロックへと音楽性を大きく変化させた新生アナーキーの活動がスタート。2001年の活動休止までに『ディンゴ』など3枚のアルバムを発表した。

 5人組のアナーキー(1978年~1985年)。4人でのTHE ROCK BAND(1986年~1989年頃)。デジロックのアナーキー(1996年~2001年)。ざっくりとそのように変化しながら続いていったバンドの歴史はそこで終わったと思われたが、しかしそれは本当の終わりではなかった。

 自分が久しぶりに茂、伸一、寺岡、コバンというオリジナルメンバーのうちの4人が揃ったライブを観たのは2010年1月23日。新宿ロフトで行われた茂の50歳記念ライブ『THE COVER SPECIAL』だった。そこではアナーキーと同年デビューのザ・ルースターズから花田裕之、下山淳、井上富雄、池畑潤二の4人も出演し、アナーキーとザ・ルースターズそれぞれの初期曲が多く演奏された。

 そしてその3年後の2013年5月4日。恵比寿リキッドルームで行われたイベント(『TOWER RECORDS presents “MAVERICK KITCHEN”』)で、マリも加えたオリジナルメンバー5人のアナーキーが突如という感じで一度きりのライブを行なった。この5人でのライブ実現は17年ぶり。自分はアナーキーが見たいがためだけに行ったのだが、深夜にステージに現れたアナーキーは確かMCもなく30分程度の短い時間を花火が爆発するような感覚で一気に駆け抜けた。一瞬のように思えたそのライブはテンションも音の迫力も何もかもが凄まじかった。それぞれが個別にほかのバンド活動やサポートなどで腕を磨いてきて、それが再びひとつになるとこんなにも凄いのかと自分は圧倒され、アナーキーはまだ終わりじゃないことを確信した。ちなみにそのとき演奏されたのは8曲で、1曲目はこのとき初披露された新曲。それは今回の新作のタイトルにもなった「パンクロックの奴隷」だった。

 そこから4年が経ち、2017年7月2日には新木場スタジオコーストでのフウドブレイン20周年記念『FUÜDOBRAIN MUST DIE』に再び5人のオリジナル・亜無亜危異で出演することが発表されたのだが、しかしその公演の1カ月前(6月4日)、ギターのマリが急逝。だがバンドは出演をとりやめることなく4人でステージに立ち、マリへの思いもこめて爆発的なパフォーマンスを見せた。ステージ上にはマリのマーシャルアンプとギター。ハンガーにマリの服も掛けられ、茂は「マリ、起きろよ!」と何度か叫んでいた。

 マリの音楽愛をどう受け継いでいくか。彼への思いをどう昇華していくべきか。そういったことを考えたのと同時に、アナーキーとしてのライブの手応えもまた確かにあったのだろう。だから4人は新木場Studio Coastからわずか半年後の2018年1月8日、新宿ロフトで亜無亜危異として再生ライブを敢行した(新作『パンクロックの奴隷』にはその映像を収めたDVDが付いている)。

 迷ったり考えこんだりしているより、すぐに動くことがロックであり、マリもきっとそれを喜ぶに違いないという思いが背中を押したのだろう。ライブ後半、「残念ながらマリはいなくなっちゃったけど、オレたち4人でもアナーキーやりてえんだよ! アナーキーやりてえんだよ!」と叫んだ茂。そこからアナーキー唯一のバラード「“530”」へ。その曲が収められた2ndアルバム『’80維新』が出た当時、自分は「バラードなんか歌ってんじゃねえよ」と思ったものだったが、しかしマリのことがあってこの曲を聴くとなると、さすがに激しく胸を揺さぶられた。

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