亜無亜危異、“反逆のアイコン”がパンクシーンに与えた衝撃 不完全復活に至る激動のバンド史を解説

亜無亜危異、激動のバンド史

 茂はまた、メンバー紹介のときに3人を紹介したあとで「お守り、マリ!」とも言っていた。日本でトップレベルに上手いギタリストの伸一(そういえば昔、泉谷しげるにインタビューした際、LOSERのギターがチャボ(仲井戸麗市)から伸一へと代わったことについて触れ、「藤沼はチャボと並んで上手いギタリスト。ある部分においてはチャボより上手いんじゃないかな」と話していたのが印象に残っている。泉谷が長きにわたって伸一を手放さないのはよくわかる)とベーシストの寺岡は“クールに熱く”グルーヴを生み出し、終盤に至って満身創痍といった感じのコバンはしかし最後まで気迫に満ちたドラムを叩き、何度もダイブして終盤には何度となく客にアナーキーコールを促していた茂はそれでもまったく声を枯らすことがなかった。久々に長尺のアナーキーのライブを体感し、「やっぱすげえや、このバンド」と自分は実感したものだった。

 そうしてアナーキーは「不完全復活」を堂々宣言。一夜や二夜に限っての復活ではなく、なんと新作をレコーディングして、ツアーも行なうことを発表したのだ。で、4月末の『ARABAKI ROCK FEST.18』出演を挿み、ここにリリースされたのが新曲6曲からなる『パンクロックの奴隷』。

 先にも書いた通り表題曲は2013年5月のライブで初披露された曲であり、「くるくるパトリオット」は今年1月の新宿ロフトで初披露された曲だ。ソングライトの面で伸一がかなり力を発揮しているこのアルバムは、初期からバンドが一貫して持ち続ける怒りをユーモラスな皮肉も混ぜながら明快に表現。

 「くるくるパトリオット」で北朝鮮のミサイル発射など近年の時事と愛国心を重ねて織り込みもするが、シリアスになりすぎずシンガロングしやすいメロディに乗せて面白おかしく表現するあたりはアナーキーのある意味での真骨頂。〈知ったかぶりぶりブリティッシュ〉なんていうフレーズからは〈あっちへふらふらフラメンコ、こっちへよろよろヨーロピアン〉(「シティ・サーファー」)から変わってない中2的な発想も見えてむしろ嬉しくなる。

 サウンド的にも、ひとまわりしてもう一度初期衝動をそのまま音にしたようなパンクっぽいノリが前に出ていて、アナーキー後期やTHE ROCK BAND期よりもアナーキー初期と繋がる感じだ。といっても演奏力のとびぬけたバンドである故、初期とは音の厚みが段違い。要するに“これだけ演奏力に秀でたバンドがこれだけ単純明快で初期衝動を表わした音楽をやるとこんなにもかっこいい”ということを一瞬でわからせるサウンドになっている。

 何よりどの曲も怒りが根底にありながら、曲調が底抜けに明るいのがいい。楽しくて、痛快。ライブで聴いたら死ぬほど盛り上がるに決まってる曲ばかり。聴けば誰でも中学生や高校生で初めてロックを聴いて無条件に興奮したあの感じが甦ってきて、熱くならないではいられないだろう。

 頭もそんなによくないし、社会に適応できないし、要領なんて全然よくないけど、ばかでかい音に乗せて、大きな声で叫んで、叫んで、とにかく叫ぶことを繰り返していれば、いつかは目の前の壁が崩れて何かが変えられるんじゃないか。変えてやる! そういう闇雲なパワーや気概に満ちたロックと出会えることはほとんどなくなってしまったし、それを嘆くこともまた時代遅れだったりするだろう……と、そう思っていたけど、2018年の今、不完全復活を果たした亜無亜危異がそんなロックを迷いなくやっている。不完全なオレたちのための不屈のパンクロック。こっちも向こうもいいおっちゃんになったけど、楽しみはまだまだこれからだ。

(文=内本順一)

『パンクロックの奴隷』

■リリース情報
『パンクロックの奴隷』
発売日:2018年9月5日(水)
価格:3,241円+税
商品形態:CD+DVD(2枚組)

<収録内容>
・CD / 全6曲
01.パンクロックの奴隷
02.偽善者ワロタ
03.くるくるパトリオット
04.イカサマ伝道師
05.タブーの正体
06.弱者の行進

・DVD / 全20曲
パンクロックの奴隷 / 心の銃 / もうアウト / シティ・サーファー / 逃げろ /
バラッド / 平和の裏側 / Harder They Come / 団地のオバサン / Ready Steady
Go / 改革子供 / 旗をかかげて / デラシネ / 530 / パトリオット / 屋根の下
の犬 / タレント・ロボット / ヒーロー / 叫んでやるぜ / ノット・サティスフ
ァイド ※2018年1月8日 東京・新宿LOFTワンマンライブを収録

■ライブ情報
『パンクロックの奴隷TOUR2018 EXTRA』
11月23日(金・祝) 大阪 味園ユニバース
開場16:00/開演17:00
出演:亜無亜危異、BRAHMAN、SA
前売:4,500 (当日料金未定) ※ドリンク代別
9月30日(日)よりチケット一般発売開始
問合せ:YUMEBANCHI OSAKA/06-6341-3525(平日11:00~19:00)

■イベント情報
『亜無亜危異「パンクロックの奴隷」発売記念トーク・イベント』
2018年9月7日(金) Asagaya/Loft A OPEN 19:30/START 20:00
出演:亜無亜危異(仲野茂、藤沼伸一、寺岡信芳、小林高夫) MC:椎名宗之 (「
Roof Top」編集局長)

亜無亜危異オフィシャルサイト

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