ハナレグミがハナレグミたるゆえんーーボーカリストとしての存在感示した『ツアー ど真ん中』千秋楽

ハナレグミ『ツアー ど真ん中』を見て

 この日のハナレグミによる「家族の風景」を聴きながら、彼はこのレベルの名演を毎回のようにしているのだろうと感じた。私が聴いたのは、2018年8月7日に新木場Studio Coastで開催された『ハナレグミ 2018 ツアー ど真ん中』でのことだった。

 考えてみるとハナレグミというミュージシャンは不思議な人物だ。かつてはSUPER BUTTER DOGのようなファンクバンドで活動していたのに、今ではまるでイメージが異なる。音楽性も含めて、ここまでソロで変化して、イメージを確立させられる人物は珍しい。

 『ハナレグミ 2018 ツアー ど真ん中』東京公演を見ながら感じたのは、ハナレグミの音楽は、2000年代以降のアコースティック楽器を多用するアメリカのシンガーシングライターやバンドに通じるものがあるということだった。楽曲によってはWilcoも連想もする。「家族の風景」だけを聴いたら、ロン・セクスミスのようだ。しかし、そこで日本的な〈どこにでもあるような 家族の風景〉を歌うことによって、日本のポップスへと昇華している。この日の「家族の風景」を聴きながらハナレグミの真骨頂だと感じたのは、そんな理由からだった。

 バンドのメンバーは、キーボードにYOSSY、ベースに伊賀航、ドラムに菅沼雄太、ギターに石井マサユキ。そしてハナレグミが登場すると、男性の声で「タカシー!」という声が飛んだ。ハナレグミとは永積 崇によるソロユニットである。

 1曲目の「ぼくはぼくでいるのが」から、バンドはリズムのタメが利きまくった演奏を聴かせた。そこに郷愁が漂う永積のボーカルが乗る。「ブルーベリーガム」では、しなやかなボーカルを聴かせた。ギターのスティール奏法が響く「My California」はアメリカンロック。それにしても今日はなぜだか「タカシー!」と叫ぶ声が男ばかりだ。

 ファンキーな「無印良人」にはユーモアも。永積はフロアに「お酒が入ってるのかい? いい感じがこっちに伝わってくるよ」と語りかけた。「大安」ではソウルフルなボーカルが全開に。ミディアムナンバーの「あいまいにあまい愛のまにまに」にはカントリーの香りが漂い、ギターにはラグタイムの匂いもした。途中でBPMが上がり、コールアンドレスポンスから、激しくシャウトをする展開も。

 イントロで歓声が上がったのは「音タイム」。カントリーロックなサウンドだ。「レター」のギターの音色はAOR的で、一方でメロディーラインには昂揚感がある。

 そしてやはりイントロで歓声が起きたのが、冒頭で紹介した「家族の風景」だった。

 レゲエの「旅に出ると」では、坂本九の「上を向いて歩こう」を挿入する一幕もあり、観客にも歌わせていた。「フリーダムライダー」はブルースロック。なにしろ〈ヘッドフォンからマディーウォーターズ〉と歌っているのだ。サビの開放感も心地いい。

 MCで永積は語る。僕らは意外と言葉にならないものを操っていると思う、曖昧さにたくさんの救いがある気がする、と。そして「音楽は深呼吸かな」と続け、「深呼吸」を演奏するためにキーボードの椅子に座った。永積の肉声の魅力を体感させる楽曲でもあった。

 元のバンド編成に戻ってからの「Spark」は、穏やかなボーカルと演奏ながら、緊張感が漂う。ゆっくりと熱し、熟していくかのような演奏だった。

 永積が、手元のキーボードでアナログシンセサイザーのような音を奏でて始まったのが「Primal Dancer」。ロック然としている楽曲は、「Primal Dancer」と「My Calfornia」ぐらいだ。スカの「太陽の月」では、永積のギターとウッドベースのかけあいもスリリングだった。

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