SPECIAL OTHERS ACOUSTICのライブで感じた、アンサンブルという名の“テレパシー”の凄み

SOA『Telepathy』リリースツアーレポ

 この日のMCで、宮原が、予告編のように映画のタイトルを言うのが上手いという話になり(どういう話だ!)、宮原と芹澤が同時に「君の名は!」と言う瞬間があった。思えば新海誠監督の『君の名は』は、若き少年少女の、時空を超えた心と心の繋がり……まるで「テレパシー」の存在を描いているような映画だった。2016年の夏は、私もあの映画を観に行き、大いに感動したのだが、しかし現実の生活の中で、あのようなダイナミックなテレパシー的な出来事というものは、そう起こらない。伝わらないこと、わかり合えないこと……そんな他者との「ズレ」を抱えながら毎日生きていくだけだ。しかし、そんな毎日の中で、人は誰かに気持ちを伝えたいと思い、誰かの気持ちをわりたいと思い、細やかな思いやりを重ねながら生きていく。

 もし、この世に「偶然」ではない、真の意味での「テレパシー」というものが存在するのであれば、結局それは、気を遣い合ったり、声をかけ合ったり、視線を投げかけたりするような、そんな具体的で繊細な心と体のやり取りを出発点にして生まれるものなのだろうと思う。SOAのアルバムに何故、『Telepathy』と名付けられたのか? きっと、このタイトルが意味するのは、何もせずとも心が通じ合うような、そんなファンタジックな「テレパシー」ではない。丁寧に、丁寧に、音と言葉と心のやり取りを重ねることによって生まれる実際的な力としての「テレパシー」なのだ。

 この日、「WOLF」の演奏中、宮原と芹澤に続き、フロアにいるオーディエンスからもハンドクラップが巻き起こった。もちろん、そもそもが精密に刻まれているこのハンドクラップを、LIQUIDROOMに集まった大人数が同じタイミングで叩けるわけもなく、会場に響く手と手の音は、ぎこちなく、バラバラにズレていく。でも、それでいい。だからこそ私たちは、「ズレ」すらも血肉化したSOAの4人の、徹底した鍛錬と実力による「アンサンブル」という名のテレパシーの凄みを感じることができる。「WOLF」における、ふたりのズレたハンドクラップに、徐々にそれぞれの楽器の音が重なっていき、ギターの旋律に戻り、再び4人の一体感のあるアンサンブルへと向かっていく……このクライマックスは圧巻だった。

(文=天野史彬/写真=中河原理英)

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