パノラマパナマタウンが語る、ロックバンドとしての今「“数字”は絶対的な価値ではない」

パノパナ語る、ロックバンドとしての今

 今年1月にアルバム『PANORAMADICTION』でA-Sketchよりメジャーデビューを果たした4ピースバンド、パノラマパナマタウンが、6月10日に新曲「$UJI」を配信リリースする。ソリッドなバンドサウンドに乗せて、出席番号、テストの点数、仕事のノルマ、年齢、収入……そういった、人間が生活していく中でどうしようもなく絡みついてくる“数字”という価値基準に対し、苛立ちを思う存分吐き散らすこの曲。バンドのフロントマンでありコンポーザーである岩渕想太は、これまでもずっと「俺は俺である」ということを言いたくて仕方がないーーそんな歌詞を書き連ねてきた男だが、これまで以上にリアリズムとメッセージ性が備わったこの「$UJI」の誕生によって、彼のリリシズムはまた新たな扉を開けた、といえるだろう。

 このインタビュー中には、“実存”という言葉が繰り返し出てくる。私やあなたが今、ここで生きている、ということ。それが今、パノラマパナマタウンが真っ向から向き合い、そしてロックバンドとして取り戻そうとしているものだ。聴き手の人生や社会に対してアクチュアルであろうとする、このロックバンドが連れてくる未来を見てみたいーー話を聞きながら、そんなことを思わされるインタビューだった。(天野史彬)

「昔から、数字には違和感があるんですよ」(岩渕想太)

ーー新曲「$UJI」は曲調がソリッドで、“数字”という歌詞のモチーフもすごく具体的でメッセージ性が強いですよね。バンドとして、かなり勝負に出ている1曲だと思うのですが。

岩渕想太(以下、岩渕):そうですね。1月に『PANORAMADDICTION』というアルバムをリリースしたんですけど、その中に入っていた「フカンショウ」っていう曲が、自分の中のすごくパーソナルなことを歌った曲だったんですよ。“ほっといてくれ”っていうテーマで、自分の中のドロドロしたものを120パーセント出した曲でした。そうしたら、「フカンショウ」を聴いて、誰から何を言われても、自分の進みたい道を進もうと思いました」とか、「岩渕さんの書いた歌詞を読んで、海外に行くことを決めました」とか、思っていた以上の感想や手紙をもらったんですよね。

ーーそういった反応は、インディーズ時代はあまりなかったんですか?

岩渕:そうですね……インディーズ時代は正直、僕の中に聴いてくれる人に対する諦めがあったと思うんです。インディーズの頃も「フカンショウ」と同じようなことは歌ってきたと思うんですよ。「なんで人の定規に合わせて動かなきゃいけないんだ?」とか、そういう想いはずっと歌ってきた。でも、自分がどれだけ歌ったところで、共感してくれる人なんていないだろうって思っていたし、どこか世間とズレている自分をカッコいいとも思っていたんでしょうね。自分が傷つかないようにしながら、少し高いところから世界を見ていた、というか。全力でがむしゃらになることはカッコ悪いことだし、自分の弱音なんか出さない方がいいと思っていたんですよね。

岩渕想太

ーーなるほど。

岩渕:その癖は、今でもあると思うんですけどね。でも、メジャーデビューするということは、これまでよりも多くの人が聴いてくれるはずで。だからこのタイミングで、「自分の想いってなんだろう?」とか、「何が伝えられるのか?」っていうことに改めて向き合おうと思ったんです。それで「フカンショウ」を作ったら、今まで自分が抱えてきた疑問がいろんな人に理解されたし、伝わった感触があった。そこで吹っ切れたんですよね。“伝えよう”変えよう”と思って歌い続けるべきだし、自分が思っていること、心の中のドロドロしたものを全部出しきることが、人に伝える一番の方法なんだなって。新曲の「$UJI」も、その想いでできた曲です。この曲も、ずっと自分が思っていたことが歌われている、すごくパーソナルな曲なんです。

ーータイトルが示すように、この曲は“数字”というモチーフを直接的に歌詞として綴っていますよね。この歌詞はどういった経緯で生まれたんですか?

岩渕:昔から、数字には違和感があるんですよ。小学校のとき、初めて出席番号を付けられたとき、「俺、2番かよ……」って思って。

ーー小学生の頃からそこに違和感を持つところが、すごいですよね。出席番号なんて、何にも気にせず受け入れていた人がほとんどだと思うのですが。

岩渕:僕はすごく気持ち悪かったんです。自分には名前だってあるし、ほかにもいろんな要素がある人間なのに“2番”っていう数字になっちゃうのか? って……。マイナンバーが送られてきたときもそうで。「数字って、こんなに俺の人生に関わってんのか!」って思いました。もし、マイナンバーの数字を一桁でも変えたら、自分は違う人間になってしまうのか? とか考えちゃうんですよね。

ーーそういった岩渕さんの敏感さって、パノラマパナマタウンの世界観の核にあるものだと思うのですが、ほかの3人から見て岩渕さんの人間性はどう映っているんですか?

田野明彦(以下、田野):多分、岩渕は考えすぎてしまう自分が嫌いでもあるし、好きでもあるんですよ。

田野明彦

田村夢希(以下、田村):そうだね。僕はさすがに、小学校の頃に出席番号に違和感はなかったので(笑)、「よく気づくなぁ」って思いますよ。疑問って、自分の人生経験から生まれるものだと思うから、何が影響して、岩渕は子供の頃からそういうことに気づくようになったんだろう? って思う。でも、大人になった今の自分には共感できる違和感だし、「$UJI」も岩渕のパーソナルな想いが具体的に出た曲でありつつ、みんなに伝わる曲になったんじゃないかなって思います。

ーー浪越さんはどう思います?

浪越康平(以下、浪越):僕も、子供の頃から数字に違和感なんて持たなかったし、今でも、多少違和感があってもスルーできてしまう性格で。だから、そんなに気に止めるか? って……。

岩渕:…………。

田村:まぁ、最初はそう思うよなぁ(笑)。

浪越:でも、やっぱり歌詞にされるとハッとするんですよね。岩渕って、人に直接伝えるときは回りくどく、クッションを挟むように喋ることが多いんですよ。でも、歌詞はそうじゃなくて。歌詞だけはすごく直接的なんですよね。僕では恥ずかしくて言えないぐらい、具体的なことが真っ直ぐ書かれている。あと岩渕の歌詞は、基本的には自分に対して思っていることだったり、自分の中の嫌な部分を歌ったりすることが多いと思うんです。でも最近の歌詞は、自分の嫌なところに勝ちに行こうとしているんだなって感じます。

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岩渕:浪越が言うように、自分の言葉を人にぶつけるようなことを普段からするわけではないし、できないんですよね。本来の自分は、人の目ばっかり気にしちゃうし、包み隠さずいろんなことを喋れるタイプではないから。でも、だからこそ歌詞であったり、バンドサウンドに乗せた状態でなら、自分の弱さが叫べる。そういう意味では今の歌詞の書き方は、自分のためにもなっていますね。バンドをやっている時だけは、自分の深いところを全部出せるし、思っていることがすべて言える。だからバンドやっているんだなって、最近思います。

ーー音楽の中で自分を曝け出すことができるようになったことで、自分がバンドをやる理由も新たに見えてきたということでしょうか。

岩渕:そうですね。最近、バンドやっていて良かったなって本当に思うんですよ。組んだ時より思っていますね。最初、バンドを組んだことに、そこまでの理由はなかったと思うんです。なんとなく“何か作りたいな”とか“何か言いたいな”って思っていたぐらいだった。でもメジャーデビューして、届けたい相手の目を見るように曲を作ることができるようになってから、本当に変わってきた。“届く”ってわかったのなら、心ゆくまで届けてやろうって思うんです。

田村:かなり人間臭くなってきたよね。お客さんとのコミュニケーションもできるようになってきたと思うし。

田村夢希

岩渕:うん。今、“熱狂中毒”っていう言葉を掲げてライブをしているんですけど、ライブっていう空間が、自分たちにとっても来てくれる人にとっても、普段言えないようなことを言える場というか、ライブの間は周りの目を気にせず、我を忘れることができる空間になればいいなと思っていて。本当に今、パノラマパナマタウンがバンドとしてが熱くなってきているなって思うんですよね。

ーー今年の2月からは全国12カ所を回る対バンツアーも行ったんですよね。そこでも新たな手応えはありましたか?

岩渕:今まで見ることができなかったものが、見えるようになってきた手応えはありました。福岡とか札幌とか、自分たちの企画では行ったことがなかった場所も回ったんですけど、そういう場所にも待っていてくれる人たちがいたし、歌詞を覚えて、拳を挙げて叫んでくれる人たちもいて。

田野:一発目の神戸から、今までのライブとはお客さんから向かってくる熱と圧が違ったんですよね。そこからどの地方に行っても、今までと比べ物にならないほどの熱量があって。“届いている”っていうことに、真摯にならないといけないなって思いました。今までは、伝わってないんじゃないか? とか、受け入れられていないんじゃないか? っていう気持ちが少なからずあったけど、もう、そんなことを気にする暇はないなって。この先は、より“お客さんを信じる”っていうことが大事になってくるなって思いましたね。

岩渕:やっぱり、こっちが弱みも全部出して、強い気持ちで熱く向き合っていったら、お客さんも熱く答えてくれるんですよね。最初に言ったことと一緒で、自分らが120パーセントの気持ちでドロドロとした人間臭いものを出すことで、お客さんも「この場所では自分を開放していいんだ」って思ってくれる。そういう熱量のやり取りができるようになったなって思います。このツアー前と後では、全然違うバンドになったと思いますよ。

浪越:12本ライブをやって、いいライブも失敗したライブも、お客さんが多かったところも少なかったところもあって。でも、自分の中の記憶に残るライブって、自分に嘘がなかった時だなって思いました。お客さんがそれなりにいて、曲をやったら盛り上がる――そういうライブって、もちろんいいライブではあるんですけど、時々、自分が何も表現していないことに気づく瞬間があるんです。ただ曲を演奏しているだけ、というか。その瞬間って、自分が代替可能なギター弾き人間になっていることに気づくんですよ。そういうライブが一番、後悔するんですよね。

浪越康平

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