乃木坂46 生駒里奈卒業コンサートに感じた、“俯瞰した視線と絶対的な肯定”

乃木坂生駒卒コンに感じた“絶対的な肯定”

 セットリスト終盤も、生駒がセンターポジションをとってグループの代表作に育っていった「君の名は希望」「制服のマネキン」等の楽曲を中心にライブは進行する。この数年、これらの楽曲がライブで披露される際、そのつどリアルタイムで乃木坂46のセンターを務めライブ全体の顔を担っていたのは、生駒ではなかった。それでも、乃木坂46のパフォーマンスの軸には、常に彼女がいる。この日のライブのクライマックスは、そのことを記憶に留める最後の瞬間でもあった。ポジションにかかわらず、一貫してグループの絶対的な象徴であった彼女の軌跡を、ごく正当に刻むものとして卒業コンサートは締めくくられた。

 毀誉褒貶の激しいアイドルというジャンルにおいて、グループの象徴を背負うことは、懐疑的・否定的なまなざしも含めた無数の声の矢面に立つことでもある。生駒里奈は、グループが独自の武器をもたない時期から、それら「世間」の視線を受け止める役を務めてきた。だからこそ、彼女の言動は常に乃木坂46を、アイドルという存在を冷静に俯瞰するものになっていった。

 印象的な言葉がいくつも生まれたこの日のコンサートのスピーチで、彼女は乃木坂46の価値を十二分に言葉にしながら、同時に「それよりも何よりも、私はうまくなりたいと思ってしまった」と卒業に至る思いを述べた。この言葉は、アイドルが歌唱やダンス、演技などの各分野において、専門性を持つ者として認識されにくい現状を示してもいる。乃木坂46はまさに生駒の卒業シングル表題曲「シンクロニシティ」で、コンテンポラリーダンスを軸にグループ史上最大級にストイックなMVを完成させ、その身体表現のレベルアップによって、かつてない成熟期の到来を告げた。この充実したタイミングにあってなお語られる彼女の言葉は、だからこそ重い。セットリスト序盤、「水玉模様」披露直後に、自身の不安定な歌唱を省みつつ「(この歌声を)『味』と言ってくれるのは、ここにいる人たちだけ」と笑ってみせた彼女の振る舞いも、ここにきて単純でない意味を有してくる。

 しかし、そうした彼女の振る舞いが決してグループを突き放すものではなく、皮肉的にもならず、むしろ爽快さを帯びているのは、彼女を象徴に据えた現在の乃木坂46のパフォーマンスが、アイドルの不自由さをではなく、アイドルが成熟期を迎えることの可能性を見せているからにほかならない。この日、彼女が語った言葉には、おそらく当人が意識しないレベルでの批評性が強く含まれていた。しかしまたそれと同等に、そのパフォーマンスには乃木坂46というグループへの肯定が表現されていた。

 生駒里奈は、アイドルであること、アイドルであると世間からみなされることの葛藤や限界を率直に表明しつつ、同時にこのジャンルのもつ可能性をパフォーマンスのレベルで見せ続けてきた。アイドルについての批評と肯定とをその一身で体現し、なにより乃木坂46の象徴を引き受けてきた彼女の卒業は、グループにとってあまりに大きな意味をもつ。そして、卒業というイベントそのもの以上に重要になるのは、彼女自身が見せる次の一歩、乃木坂46が見せる次の一歩である。今、そのいずれにも大きな期待を抱くことができるのは、彼女が乃木坂46を現在地まで導いてきた、偉大な足跡があってこそに違いない。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

■セットリスト
01. 乃木坂の詩
02. おいでシャンプー
03. 太陽ノック
04. 水玉模様
05. トキトキメキメキ
06. スカウトマン
07. Against
08. シンクロニシティ
09. 初日
10. てもでもの涙
11. 心のプラカード
12. ここじゃないどこか
13. 満月が消えた
14. あらかじめ語られるロマンス
15. 無口なライオン
16. 指望遠鏡
17. 月の大きさ
18. ハウス!
19. 君の名は希望
20. 悲しみの忘れ方
21. 制服のマネキン
En1. 走れ!Bicycle
En2. シャキイズム
En3. ぐるぐるカーテン
WEn1. 君の名は希望

 

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