ライムスター宇多丸は新時代のタモリになる? ラジオ『アトロク』開始を機にその才能を考察

 夕方に帯で放送される『アフター6ジャンクション』への起用は、宇多丸のそんな振り幅の大きさに期待してのことだろう。平日のルーティンから解放される週末の夜から、多くの人が会社や学校から帰宅する日常的な時間帯へ。そんな移動にも彼は適応できるという読みが編成側にはあったはず。

 これまでの映画評コーナーが金曜の放送に引っ越すなど、『アフター6ジャンクション』は『ウィークエンド・シャッフル』の基本路線を受け継ぎ、カルチャー・キュレーション番組と位置づけられている。毎日、カルチャーの情報や分析、スタジオライブなどを放送するわけだが、初回の特集テーマが本のスリップ(挟まれている長細い伝票)だったあたりに、番組の趣味性の高さが現れている。

 12日の放送では『ジブラの日本語ラップメソッド』を出版したばかりのZEEBRAがゲストで登場し、日本語ラップの韻を解説。そこでは自作曲だけでなくRHYMESTERの曲もとりあげ、宇多丸が「ジブさんが『B-BOYイズム』を歌ってるのにグッとくるんですけど」という場面もあった。他のラジオ局が野球中継を未だ継続する時間帯に参入した番組でこのやりとりが流れたことに、日本語ラップも珍しくなくなったのだなと感慨を覚えた。

 11日にゲストだったいとうせいこうが提案し、リスナーからも同じ案が寄せられていた『アトロク』(@6の含みもある)が略称に決まった『アフター6ジャンクション』では、交通情報や通販コーナーのさしはさまれかたなどに『タマフル』とはやや違う生活感が漂う。帰宅時間帯ということもあるだろう。社会人リスナーが多いと思われる番組だが、野球以外の選択肢としてカルチャーを打ち出した内容は、クラブ活動をしない「帰宅部」的なノリが感じられる。

 そこで思い出したのが、大槻ケンヂ著『サブカルで食う 就職せず好きなことだけをやって生きていく方法』(2012年)の巻末対談での宇多丸の言葉。2人は、サブカルで食べるには実家暮らしがいいという話で共感し、宇多丸は実家を出たのは30歳超えてからだったと自己申告した。3枚くらいアルバムを出していたのにまだ実家だったとふり返り、「曲の中では偉そうに社会に物申すようなこと言ってるのに」と笑った。私は、これと同様の感覚が宇多丸のラジオにはあると思う。

 実家にいるリスナーばかりではないだろうが、自宅や、あるいは会社や学校からいったん離れたところで、社会やいろんなものごとに斜めからツッコミを入れてとらえる番組を聴いている。そんな、リスナーにとってのホームである居場所、サブカル的な場所を提供するのが『タマフル』であり『アトロク』だと感じる。こんな場所を必要とする人は、どの時代にもいるのだ。宇多丸VS野球の対決をサバイブして新番組が長く続くことを願う。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

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