『A FLOOD OF CIRCUS 2018』
a flood of circleは4つ目のピースを取り戻した 主催ライブイベントから感じた快進撃の始まり
続いては、AFOCとは10年以上の付き合いだというUNISON SQUARE GARDEN。アルバム『MODE MOOD MODE』リリース直後のためその収録曲が披露されたほか、「マスターボリューム」(2009年リリースのシングル表題曲)がライブで久々に演奏されたこと、斎藤宏介(Vo/Gt)が「(AFOCの)佐々木くんがバイトしていたフレッシュネスバーガーに行って、『おはようございます! 泥水のコーヒーください』と冷やかしに行ったら嫌な顔一つせずアイスコーヒーを出してくれた」というエピソードを話していたことがこの日ならではのポイントだろうか。1月末にツアーを終えたばかりというだけあって、バンドサウンドは緩急のレンジが広く、切れ味抜群。隅々まで神経の行きわたった演奏からはバンドの好調っぷりが窺えた。
トリ前を任せられたLarge House Satisfactionは、「『A FLOOD OF CIRCUS』に悪さをしにやってきました!」と小林要司(Vo/Gt)の不敵な宣言からスタート。「出番が遅え! 酒が飲めねえ!」と悪態をつきつつ他バンドのライブを楽しんでいたのだとメンバーは話していたが、共演者に刺激を受けたのか、重心の低いリフにもしゃがれ声のボーカルにも気合いのほどがよく表れている。しかしそのサウンドはただ泥臭いだけではなく、ポップなメロディライン、小粋なコード進行などが時折光っているから心憎い。特に中盤に披露されたミドルバラード「ニヤ」の懐の深い響きは、初見のオーディエンスたちの意表をついたのでは。
ここまでの6組を観て思ったのは、bloodthirsty butchers・吉村秀樹の言い間違いが元々の由来だったとはいえ、「A FLOOD OF CIRCUS」とは言い得て妙だなということ。「無責任なことを言いますが、みなさん好きなことをやってください。だって今日はサーカスでしょ?」という要司の言葉も象徴的だったが、例えば「どこだろうとライブハウスはライブハウス」という姿勢で臨んだSIX LOUNGE然り、ライブのやり方に関して独自の美学を持つUNISON SQUARE GARDEN然り、この日の出演者はバンドの“軸”にあたる部分を打ち出すライブをするような、何か一つの“芸”を持つバンドばかりだった。おそらくAFOCは出演バンドのそういう点に敬意を持っていて、付き合いの長さやバンドのキャリア、音楽的なジャンルなどではなく、“リスペクトできるかどうか”という点を基準に出演をオファーしていったからこそ、結果的に幅の広く、しかしイベントを通して観た時にどこか統一感のあるようなラインナップが実現したのではないだろうか。
そして、本日のホスト・a flood of circle。すでにニュースも出ている通り、一般公募で選出されサポートを務めていたアオキテツ(Gt)の正式加入が、このライブ中に発表された。その時の「……入る?」(佐々木)、「軽いよおお! 入るよおお!」(アオキ)というやりとりは多くの人の記憶に残るであろう瞬間だったが、その直後、佐々木が言った「いろいろな歴史をひっくるめて進もうとしている」という話も印象深かった。なぜなら、この日の演奏がまさにそれを証明するようなものだったからだ。「フェルディナン・グリフォン・サーカス」(2010年)、「Dancing Zombiez」(2013年)、「泥水のメロディー」(2008年)、「NEW TRIBE」(2017年)とリリース時期の異なる曲を連続し、疾走した前半戦。弥吉淳二追悼の意を込めて佐々木が冒頭をアカペラで歌った「Honey Moon Song」。AFOCの得意技と新しい要素が絡み合う、UNISON SQUARE GARDEN・田淵智也プロデュースの新曲「ミッドナイト・クローラー」――。様々なギタリストに支えられ、愛されながら転がり続けたバンドの歩みを凝縮するようなライブのラストシーンで、メンバーに促される形でオーディエンスが歌声を張り上げる場面はあまりに感動的だった。
終演後、会場外には4人揃った新バージョンのアーティスト写真がたくさん貼られていた。翌週にリリースされた8thアルバムが二度目のセルフタイトルだったのは、このタイミングでバンドが生まれ変わったから、ということだろう。4つ目のピースを取り戻したAFOCの快進撃が、ここから始まっていく。
■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。