くるり『その線は水平線』の“驚異的な中毒性”はなぜ生まれた? 近作の傾向から兵庫慎司が考察

くるり『その線は水平線』の“驚異的な中毒性”はなぜ生まれた? 近作の傾向から兵庫慎司が考察

 くるり、通算31枚目のニューシングル『その線は水平線』が2月21日にリリースになった。10,000枚生産限定盤である。

 表題曲は、屋敷豪太がドラムを叩いている1曲目と、クリフ・アーモンドが叩いている「その線は水平線 Ver.2」の2バージョンを収録。加えて、カップリングとして、『京都音楽博覧会2017』での「ジュビリー」「奇跡」などのライブテイク、6曲も収められている。

 「その線は水平線」はもともと、2010年頃からライブでは弾き語りで披露されていた曲。2011年の是枝裕和監督の映画『奇跡』の劇伴とテーマ曲をくるりは手がけたが、そのテーマ曲「奇跡」と並ぶ候補が、この「その線は水平線」でもあったという。

 封入特典として「おりがみ」が入っている。全部で18色、CDによって色が違う。レーベルのオフィシャル宣伝資料によると、「なぜ特典が『おりがみ』なのか? それはみなさんのご想像にお任せします」だそうです。

 ライブやレギュラーのラジオ等ではすでに産休から復帰していたファンファンの、新音源としての本格復帰作でもある。そのことを告げるように、二度目の間奏で彼女のトランペットがフィーチャーされている。

 以上、このシングルのデータ的な概要でした。

 さて、曲の中身。2016年7月6日リリースのシングル『琥珀色の街、上海蟹の朝』以来、くるりというバンドにとってのシングルの意味合いが変わった、そう感じているファンは少なくないのではないかと思う。シンプルな構造の中にとてつもない情報量・感情の量が込められた、異様に濃い、それこそ「1曲でアルバム1枚分の価値」ぐらいの曲をシングルにするようになったというか、逆に言うとそういう曲しかシングルとして出さなくなったというか。

 くり返すが、『琥珀色の街、上海蟹の朝』も、その次の『How Can I Do?』(2017年9月20日配信リリース)も、構造としてはシンプルな曲だ。『琥珀色の街、上海蟹の朝』は「くるりが今さら歌ものヒップホップやってる」みたいな捉え方も可能だったし、『How Can I Do?』は、「ああ、くるりが得意なフォーキーでトラッド入ったやつね」というふうにも聴ける。

 が、いつまでもいつまでも聴いていたくなる、曲が終わるや否やリピートせずにはいられなくなるような中毒性を、同時にどちらも併せ持っている曲だった。僕がくるりの曲でこの手の体験を初めてしたのは、2004年のシングル『ロックンロール』だった。2012年の『everybody feels the same』もそのラインの曲だった。で、出す曲出す曲毎回そうなってきているのが、ここ数年のくるりである、とも言えると思う。

 本作も正しくその線上にある。作りはシンプルで、シングルとしては淡々とした曲だと言えるが、聴き進んでいくと耳が驚異的な中毒性に冒されていくような。

 頭から最後までメロディは一種類だけ……というのは言い過ぎだが、譜割りと音の上がり下がりの形はほぼ一種類、とは言ってもいいと思う。コード展開が変わっていくことによって、その一種類のメロディが微妙に形を変えながら輝いていく、という聴かせ方。

 左右のチャンネルに振り分けられた、どちらも歪んでいるがその歪みの色合いが異なる2本のギターが、曲のカラーを決めている。ベースは音の輪郭をギリギリまでぼかすように、かなり低域で鳴っている。屋敷豪太によるドラムはシンプルな8ビート。チャイム、ハープもしくはハーモニカなど、差し音ちょいちょいあり。特に後奏では、じわじわと楽器の数が増えていき、かなりカオスなことになる。中でも聴きどころはギターソロ。一時期くるりにサポートで参加していた内橋和久のプレイを思い出させるフリーキーな鳴り。

 歌詞は、これまでとは違う新しい場所へと踏み出そう、それが怖さを伴うものであっても目の前に広がる可能性に賭けようーーというようなことを、「水平線」「太陽」「流星群」「大空」などのワードを使って描いたもの……どうでしょう。くるりに限らずですが、歌詞って、こんなふうに大意をまとめようとすると、実物のよさがまったく伝わらなくなるものですね。しょぼく見えるものですね、あたりまえだけど。困った。

 ともあれ。もちろんいい曲を作りたいし、それを目指して書けるもんなら書きたいけど、そういうわけにいかない。「なんかひらめいちゃった」みたいな偶発性ゼロで、努力やがんばりや狙いだけで名曲を生むのは無理。というのは、多くのミュージシャンが言うことだが、今のくるりは、そこを突破して、いい曲を書きたくて書く、思ったところに打球を落とせるみたいな能力を手に入れているのではないか、という気がしてくる、聴いていると。

 岸田繁が京都市交響楽団に依頼を受けて「交響曲第一番」を書き下ろした経験や、度重なるくるりとオーケストラの共作・共演による影響もあるだろうし、佐藤征史があちこちのレコーディングやライブでサポートミュージシャン仕事をするようになっていることも関係あると思う。

 岸田は奥田民生・伊藤大地とのサンフジンズもあるし、先述したような映画の劇伴仕事もある。京都精華大学の先生もあるか。とにかく、いろいろやっている。その「いろいろやっている」ことが、1曲1曲にわかりやすく反映されるようになっているのが、今のくるりなのかもしれない。

 逆に言うと、1曲1曲がそれくらい濃くて重要なものになっているがゆえに、フルサイズのアルバムはなかなか作れない、ということなのかもしれないが(前作『THE PIER』からもう3年半経っているし)。

 このリリースの2日後、2月23・24日のZepp Osaka Baysideから、全16本のツアー『くるりライブツアー「線」』がスタートした。ある種、シングル1曲1曲と同じように、ツアー一回のたびの重要度もアップしているのが、今のくるりでもある。このツアーも、ツアーが終わったあとの展開も、楽しみに待ちたいと思う。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA NET.」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。

くるり『その線は水平線』

■リリース情報
『その線は水平線』
10,000枚限定シングル
発売:2018年2月21日(水)
価格:¥1,700(税抜)
7インチジャケット仕様/おりがみ封入

■ライブ情報
『くるりライブツアー「線」』
2月23日(金) 大阪・Zepp Osaka Bayside
2月24日(土) 大阪・Zepp Osaka Bayside
3月3日(土) 北海道・札幌ペニーレーン24
3月4日(日) 北海道・旭川CASINO DRIVE
3月6日(火) 青森・青森Quarter
3月8日(木) 宮城・Rensa
3月10日(土) 富山・富山MAIRO
3月11日(日) 石川・金沢EIGHT HALL
3月16日(金) 鹿児島・CAPARVO HALL
3月18日(日) 福岡・福岡DRUM LOGOS
3月20日(火) 松山・WstudioRED
3月21日(水・祝) 高松・festhalle
3月23日(金) 広島・広島クラブクアトロ
3月24日(土) 愛知・Zepp Nagoya
3月30日(金) 東京・Zepp Tokyo
3月31日(土) 東京・Zepp Tokyo

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