兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第18回
サンボマスター「できっこないを やらなくちゃ」が今多くの人に届いた理由を兵庫慎司が考える
では、なぜこの番組でこの曲が売れたのか。
まず、「チアダン素人だった五十嵐先生がこの曲に励まされながらJETSを全米制覇に導いた」という現実のストーリーがあってこそなのは言うまでもない。が、その上で、もっとシンプルかつ単純な理由がある。
画面に歌詞テロップが出たからだ。
<どんなに打ちのめされたって 悲しみに心をまかせちゃだめだよ>
<あきらめないでどんな時も 君なら出来るんだどんな事も>
という、わかりやすくストレートな歌詞が、五十嵐先生&JETSのストーリーと相まって多くの視聴者の心を射抜いた、ということだろう。
「わかってるよ!」「さっきから何あたりまえのこと書いてんだよ」と言われそうだが、つまり、「できっこないを やらなくちゃ」がこんな曲であること、サンボマスターがこんなバンドであることを、僕が思っている以上にみんな知らなかったことに、びっくりしたわけです。
くり返すが、彼らのファンの多くも、僕と同じように「え、今?」「8年前の曲ですけど」「いつもライブでやってますけど」という気持ちだったと思う。
でも、そうなんですよね、8年も前なんですよね。なら、知らない人が多くても不思議はないし、サンボのブレイク後ちょっと経ってからリリースされた曲なので、当時は「ああ、サンボね」みたいな感じで、注意深く聴いていなかった、今初めてこんないい曲だったことを知った、という人が多くても不思議はない。
僕は、サンボマスターは、すでに一度「世に問われた」バンドだと思っていた。で、その時に成果を出した、つまりブレイクしたが、「のってたまるか」とばかりに自らそれに背を向けた部分もあって(2008年リリースの4thアルバム『音楽の子供はみな歌う』の頃の時期はそういう感じだった。当時、インタビューで本人たちとそんな話をした記憶もある)、以降は確実にファンベースは築きながらも、ヒットチャート上位に常に入っている存在ではないまま歩んで来ている、そんなバンドだと思っていた。
が、しかし、そうか。まだ届いていない世代、一回届いたけどもう忘れている世代がこんなにいるのか。サンボマスター、「熱い」「ポジティブ」以外にもいっぱい要素がありすぎて渋滞を起こしてるみたいな人たちだけど、今回のこの番組のように、その部分をスッとわかりやすく前面に出せば、これだけ多くの人に届くのか。
ということが、今回のこのことで、改めて立証された気がしたのだった。
そうか、まだまだ可能性あるんだな、と。で、その可能性、もちろん新しいサンボマスターの曲から見つけていくこともできるけど、過去の曲でもいいんだな、と。
そういえば8枚目の『サンボマスターとキミ』に「可能性」という曲、ありますね。映画『ビリギャル』の主題歌になって、エンドロールで出演者みんなが歌っていたやつ。
さしあたっては、次、あの曲とか、どうですかね?
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA NET.」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。