サンボマスター「できっこないを やらなくちゃ」が今多くの人に届いた理由を兵庫慎司が考える

 2018年1月8日夜放送の、TBSが年に一回この時期に放送しているお正月特番『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢かなえたろかSP』にサンボマスターが出演、福井県立福井商業高校チアリーダー部「JETS」と共に「できっこないを やらなくちゃ」を生演奏。

『サンボマスター 究極ベスト』

 翌日、同曲収録のベストアルバム『サンボマスター 究極ベスト』が、iTunesを始め各配信サイトで1位、シングルチャートでも同曲が軒並み上位にランクインした。その全方位的なプチブレイクぶりは、当のサンボマスター山口隆も、「みなさんありがとうございます」と何度もツイートする中に、思わず「なんかすみません」というひとことを入れてしまうほどだった。

 というこの件に驚いたサンボマスターのファンは、多いのではないかと思う。というか、少なくとも僕はびっくりした。したが、「なんで? ゴールデンタイムの人気番組に出て、歌って、売れた、ってよくある話じゃん」と捉えられるのもわかる。

 なので、自分がなぜそんなに驚いたのか、改めて考えてみる。

 その前に、ご存じない方のために、その番組の趣旨をお伝えしておくと、『さんま・玉緒のお年玉 あんたの夢をかなえたろかスペシャル』は、視聴者から「叶えたい夢」を募集するというもの。今年のテーマは「史上○○な夢」で、「顧問の先生の前でサンボマスターの生演奏で踊りたい」という福井県立福井商業高等学校のチアダンス部、JETSの夢が採用されたのだ。

 映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』のモデルになったJETSには、10年前の創部以来、ずっと踊り続けている曲があって、それがサンボマスターの「できっこないを やらなくちゃ」だった。顧問になった当時は完全に素人だった五十嵐裕子先生が、部を全米一位に導くまで、心の支えになり続けた大事な曲だという。番組では、創部10周年、五十嵐裕子先生50歳の誕生日のプレゼントとして、サンボマスターの生演奏で、チアダンスが披露されることになった。

 最初は冷静に、というかやや斜に構えて見始めた僕も、冒頭では現在のJETSのメンバーだけで踊っていたのが、途中でOGたちがドーッと加わったところで、まんまと涙腺決壊しました。

 さて。では僕は、翌日の各配信サイトでの「できっこないを やらなくちゃ」のプチブレイクに、なぜそんなに驚いたのか。

 まず、これ、2010年2月リリースのシングルである。当時日産セレナのCMソングになってテレビでばんばん流れていたが、そのわりにそこまでヒットしなかった(オリコンウィークリーチャート77位。ちなみにいちばん売れた2005年の「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」は7位)。

 つまり、地味にリリースされたので当時は注目されなかったが、のちに人気曲になったフラワーカンパニーズの「深夜高速」みたいなケースではない。言ってしまえば「リリース時に決着のついている曲」だ。ゆえに「ええっ、今? これが?」と、驚いたのだった。

 そして、サンボマスターというバンド自体……ええと、言葉を選ぶのが難しいな、はっきり言ってしまうと、一回めちゃくちゃ売れて、そのあと落ち着いて、以降ブレイクはしてないしテレビとかもそんなに出ないけど、熱心なファンが多数いて安定した活動を続けている、くらいのポジションにいるのではないかと、僕は思っている。

 つまり、その存在は記憶していても、「2017年12月に初めて日本武道館ワンマンやったんですよ」と言うと「えっ、まだそんなに人気あるの?」ぐらいの認識の人が多いのではないかと思うのだ、ロックファン以外は。

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