新宿JAM、2017年をもって閉店 ハードコアパンクの名作生んだ“ジャムスタ”の歩みを振り返る
新宿にある老舗ライブハウス・新宿JAMが、2017年いっぱいをもって閉店する。
建物の老朽化による閉店ということらしいが、このライブハウスに思い出が深いミュージシャンや音楽関係者は多いだろう。
東京のアンダーグラウンドシーンを支え続けてきた老舗ライブハウスの閉店には、非常に寂しいものがある。
30年以上アンダーグラウンドシーンで活動している筆者もその1人だ。
そこで、新宿JAMについて、個人的な思いを書かせてもらいたいと思う。
新宿JAMといえば、以前はSTUDIO JAMという名前で営業しており、通称「ジャムスタ」と呼ばれ東京アンダーグラウンドシーンで活動する人間で知らない者はいないライブハウスである。
日本のハードコアパンク創世記には、ジャムスタで数々の伝説のライブが行われていた。
当時ハードコア四天王と言われていた中でも、THE COMESのデビューGIGが新宿のジャムスタだった。
<CITY ROCKER RECORDS>から発売された伝説のオムニバスレコード『OUTSIDER』に収録された、MADAME EDWARDAのライブもジャムスタだった。
1980年代初期にジャムスタで行われたイベント『エモーショナルマーケット』には、多数のハードコアバンドやパンクバンドが出演していたが、日本のハードコア創世記の各バンドや客の暴れっぷりは凄まじく、その影響からかはわからないが、その後少しするとジャムスタはハードコアのバンドが出演禁止となる。
筆者が足繁くハードコアパンクのライブに通うようになった1980年代初期から中期にかけての頃はそんな時代で、当時ジャムスタではハードコアパンクのライブを観ることはなかったように思う。
ジャムスタにはハードコアパンクが出演できなくなってからの思い出が多い。
ライブでの出演はできなかったが、その名の通りスタジオとして営業もしていたジャムスタでは、数々のハードコアパンクバンドのレコーディングがおこなわれ、多くの名作を生んでいることをご存知だろうか。
当時ジャムスタのレコーディングを不動のものにしたのは、何と言ってもLIP CREAMが1986年に、雑誌宝島のレーベルである<Captain records>から発売したLP『KILL UGLY POP』にほかならない。
このアルバムの素晴らしさは、日本のみならず世界中に新たな日本のハードコアパンクのスタイルを打ち出した点にある。当時LIP CREAMから影響を受けたバンドが無数に存在する要因ともなったアルバムである。
この作品のエンジニアを務めたHAMAKAZU氏は、これ以降ジャムスタのハードコアパンクバンドのレコーディングを一手に引き受けることになる。
GAUZEの名作12インチ『EQUALIZING DISTORT』や、当時初来日を果たしたCHAOS U.Kのアルバム『JUST MERE SLAVES』もジャムスタで録音された。
当時のハードコアパンクバンドの作品をリリースしていた<SELFISH RECORDS>から発売された中で、東京のバンドはほとんどといっていいほどジャムスタで録音していた。
筆者が初めてDEATH SIDEでレコーディングを経験したのもジャムスタである。
また、東京のバンドのみならず、当時静岡ハードコアの雄であったDEADLESS MUSSもジャムスタでレコーディングをしていた。
筆者は1986年頃から、当時ジャムスタで録音していた数多くのバンドのレコーディングのほとんどに遊びに行き、コーラスにも参加し、まだ何もわからなかった筆者がレコーディングのやり方を覚えたのもジャムスタだった。
中でもLIP CREAMは『KILL UGRY POP』以降も全ての作品をジャムスタでレコーディングしているが、そのレコーディング方法はほかのバンドとは全く違う方法でおこなわれており、度肝を抜かされたことが今でも強く印象に残っている。
ライブバンドであるLIP CREAMだからこそできる、時間をかけないレコーディングスタイル。それは、ほかのバンドならば何日もかけて録音するところを、3日もかからず全ての録音を終えるというものだ。その影響は現在筆者が活動しているFORWARDのレコーディングスタイルにも受け継がれている。
バッキング録音の際に、1曲終わるごとに確認することをほとんどせず、自分たちが納得いく演奏ができればOKで次の曲に進むといった、まさにライブ感覚のレコーディングだった。
ギターの重ねでは、2本目の被せ時にバッキングとソロの両方を弾くため、ライブのような臨場感の上にギターの厚みも増し、従来のバンドによくある完成後にギターソロだけが別録音だとあからさまにわかるようにならない方法で録音していた。
そこにはエンジニアのHAMAKAZU氏との信頼関係もあるだろう。HAMAKAZU氏がそこまでハードコアパンクの人間たちと意思疎通がスムーズにできた理由には、そのレコーディング手腕以外にも、東京アンダーグラウンドシーンでは知らぬ者がいないAUTO-MODのドラムスだったという過去があったため、ハードコアパンクの人間たちの気持ちをよく理解できていたことも大きな要因の一つであったように思う。
V.A『THRASH TIL DEATH』でのGAUZE、LIP CREAMや、SYSTEMATIC DEATHが当時復活して発売した7インチ『FLASH BACK』のほかにも、<SELFISH RECORDS>から発売された数多くの名作がジャムスタで録音されているが、LIP CREAMの『KILL UGRY POP』、GAUZEの『EQUALIZING DISTORT』、CHAOS U.Kの『JUSY MERE SLAVES』以降、ジャムスタのサウンドシステムに変更があったため、この3作品はジャムスタ録音のハードコアパンクの名作群の中においても、歴史に残るジャムスタ作品と言えるだろう。