スキンヘッズ、サイコビリー、パンクス…日本ではなぜ仲が良い? 田中昭司×柳家睦×ISHIYA座談会

田中昭司×柳家睦×ISHIYA座談会

 2017年9月、日本のスキンヘッズシーンの中心的存在とも言われるバンド・鐵槌が、結成27年目にして初のシングルを発売した。彼らは日本にスキンヘッズシーンを築いたバンドであり、国内はもちろん海外でも高く評価されている。ボーカルの田中昭司と、当サイトでライターとしても活躍しているパンクバンドFORWARD/DEATH SIDEのボーカル・ISHIYAは30年来の仲だ。しかし、これは日本独自の関係性だという。海外ではスキンヘッズ、サイコビリー、パンクスといった各シーンには大きな隔たりがあり、交わることはないそうだ。ジャンルを越えた交流は極めて特殊なことなのである。

 そこで今回リアルサウンドでは、スキンズ代表田中、パンク代表ISHIYA、さらにサイコビリー代表としてBATTLE OF NINJAMANZ、柳家睦とラットボーンズのボーカル・柳家睦を迎えた座談会を行い、日本と海外での各ジャンルの違いや時代の流れとともに変化するシーンの状況などについて大いに語り合ってもらった。(編集部)

海外のスキンズ、サイコビリー、パンクの特徴と関係性

ISHIYA:今回の座談会は、そもそも日本のスキンズとサイコビリー、パンクって仲が良いけど、それって世界的に見るとおかしいんじゃないかってところから実現した企画なんだよね。

柳家睦(以下、柳家):本当におかしいですよ。

ISHIYA:睦は海外に行ったことがあるから聞きたいんだけど、海外のサイコビリーってどんな感じなの?

柳家:土地にもよるんですけど、ドイツはみんな仲良くやってる感じ、チェコに行ったときはスキンズまではいかないですけど、バイク乗りとかそういう感じの客はいましたね。そのときのうちのギターがハードコアのやつで、一人クラストのオタクみたいな客に「なんでお前はクラストなのにサイコビリーなんかやってんだ」って絡まれて。俺もAnti CimexのTシャツ着てたら「なんでお前はサイコビリーなのにこんなTシャツ着てるんだ」って。

田中昭司(以下、田中):それはおかしなことなの? やっぱり。

柳家:それでそいつに話を聞くと、別の会場でスキンズのやつに話しかけられて、この前のGIGでスキンズにクラストがブッ飛ばされて入院したって話を自慢げに言ってくるから、なんでスキンズはそんな悪自慢をするのかと。そのとばっちりが俺らに向けられてたんですよね。

ISHIYA:サイコビリーとスキンズの関係は向こうではどんな感じ?

柳家:微妙じゃないですか。それこそ90年代初めは、雑誌に載っているナチ系のデモにサイコ刈りがいたりとか。

昭司:スキンズ自体もテッズからの流れだからね。テディーボーイがモッズに行った連中とテッズに行った連中と分かれて。

ISHIYA:海外のスキンズシーンはどうなってるの?

昭司:結局RACとSHARPで分かれてるんだけど。

ISHIYA:RACは人種差別とかネオナチの極右思想っていうのは知ってるけど、SHARPっていうのは?

田中昭司(鐵槌)

昭司:RACと逆だよね。人種差別反対。それで分かれてる。今でもRACはタブー的なものとされていて、RACを昔やってただけで、ネットで「昔こういうバンドやってました」って書かれて叩かれちゃう。実際、RACは愛国心から人種差別的な思想につながってるんだけど、SHARPの方は、人種差別をしなければあとは何をやってもいいという感じ。薬も女も何しても関係ないって感覚なんだよね。

ISHIYA:人種差別だけはだめってことね。

昭司:そう。人種差別はいけないっていう、そこの一点だけの価値観で分かれていて。だからといって、そのほかは何してもいいっていうのはねえ。

ISHIYA:レイシズムが、世界ではかなりのポイントになってるってことだね。でもそこは大事だと思うよ。

柳家:Meteorsも「ジャンルなんか関係ねぇよ。メタルだろうとなんだろうと来いよ! その代わりアイルランド人以外な」って明言してますね。なんでアイルランド人だけダメなんだって。

昭司:人種に対する愛が深すぎるんじゃないの? 自分らの血族はっていう思いが強いんだろうね。

ISHIYA:日本だとそう理解するってこと?

昭司:俺たちはね。自分の国が一番好きだしさ、そういう当たり前のこと。

ISHIYA:でも海外ではスキンズとパンクスは特に相容れないよね。

昭司:なんでそうなってるの?

ISHIYA:思想じゃないの。スキンズにはナチが多いから。

柳家:僕がドイツツアーをまわったときに、リーダーのやつがずっとドクロの横向きのナチの紋章とか見て「いいねぇ~」みたいなことを言うんですよ。そうしたらサイコビリーのやつが「あいつは元々東の方でネオナチだったんだよ。でも今はネオナチじゃないからこうやってツアーとかまわれるんだけど」って言ってて。ツアー中もスキンズの襲撃がくるとかいう噂があったんで「おお~! 怖ぇのかな?」なんて言いながらツアーしてたんですけど、その人がいたから実はなかったのかなって。そういう役割の人はいましたね。

ISHIYA(DEATH SIDE)

ISHIYA:俺の知ってるパンクシーンは暴力的だったりすることもあるけど、海外のパンクはすごく真面目なやつも多くてさ。不良とか悪いやつはみんなメタルになるんだよね。アメリカだと特に。ハードコアだと、海外ではクラストとかDIYって言われるシーンが中心で、文化系みたいな感じが多いんだけど、中にはイカツイのもいて、そういうのが警官やレイシストとぶつかったりしてる。イギリスでナショナルフロントって政党ができてスキンズたちを煽ったじゃん。あれからスキンズがそうなっていったんだよね。政治利用されちゃって。

昭司:まぁそうだよね。

ISHIYA:パンクスだと政治利用はされない側にいるんだよ。とにかく反体制だから。ロックバンドとして有名になっていくバンドは、もちろんそこは音楽ありきなわけで。

昭司:政治なんてさ、そんな音楽やりながらしっかりやれるものではないよね。

ISHIYA:真剣に政治のことを考えて音楽にしているやつはたくさんいるよ。でも俺が思うに素晴らしくかっこいいのは一部だけだと思う。素晴らしい思想で、素晴らしい人間なんだけど音が残念ってのはあるね。

昭司:伝えるにはそれでいいけど、音楽にするならかっこよくないとね。

ISHIYA:かっこいいバンドもたくさんいるけどね、CRASSとかCONFLICTとかさ。本当に国家から煙たがられる存在だったし、あれは本物なんじゃないかな。海外のパンクスにも、デモに参加したり、日常生活で警官やネオナチに対抗する人間はたくさんいるからね。

柳家:僕が思うに、国によって違いがあるのは、生まれ育った環境や宗教が何か関係してるのかなって。

ISHIYA:確かに海外だと宗教はでかいかもしれないね。

柳家:Meteorsが言ったアイルランド人が嫌いっていうのも、プロテスタントとカトリックの争いに尽きるんじゃないですか。ひっくるめて結局そういう国対国みたいな感じになってくるのかなって。

ISHIYA:でもそれって危ないよね。スキンズは白人と黒人とかそういう人種間の問題じゃないの?

昭司:白人同士の中でもあるよ。だから結局自分の国ありきの考えの人が多いよね。自分の国には自分の国の言い分、自分の正義があるわけじゃん。

ISHIYA:例えば同じ宗教じゃないとバンドを組まないとかはないの?

昭司:それはどうなんだろうね。例えばイスラムのスキンズもいるけど、それを表に出してやってるスキンヘッドはいないかもしれない。RACにも、それを表立って言わないでやってるやつらもいる。

ISHIYA:パンクだと無宗教っていうことを表に出すね。反宗教とか。

昭司:じゃあさ、その無宗教の人たちは神様に祈らないわけ?

ISHIYA:一切を否定すると思う。

昭司:根本的に違うよね、日本人と。別に俺は宗教どうこうじゃないけどさ、神頼みするもんね。必ずさ。それは体に染み付いてるっていうか。どの神様にお祈りってわけじゃないけどさ。

柳家:無宗教でありながら神様が近い存在にあるんですかね?

昭司:例えば自分の死んだ親父とかも、守護霊というか神様みたいなものじゃん。

ISHIYA:神というものを特別視してないよね。

昭司:してないね。してないけど常にいるものだっていう自覚はあって。海外は1人しかいないから、神様が。俺ら八百万だから。それが普通だから。とにかく色んな価値観の違いはあるってことだな。

ISHIYA:価値観の違いを認め合えてるかどうかが、スキンズ・サイコビリー・パンクスが仲良くやっているのかにもつながってるのかもしれないね。でも、海外でもパンクスとサイコビリーは仲が良いよね?

柳家睦(柳家睦とラットボーンズ)

柳家:そうですね、仲良いですね。Rancidとかがアメリカでシーンを作ってから変わった気はしますね。一方でサイコビリーはサイコビリーしかないんですよ。やつらはロカビリーとも仲悪いし、テッズとも仲悪いし、孤立ですよね(笑)。

ISHIYA:俺が高校生ぐらいのときにThe RockatsとかMeteorsとか聴いてたから、ハードコアパンクと時代的にはあんまり変わらないんだよね。

昭司:新宿にあったツバキハウスで一緒に流れてたからね、Dead Kennedysとか King Kurtとか。

柳家:フランスの方だと、スキンズとかパンクスとかの写真を撮ってる人の本の中に、サイコ刈りでバット持ってるやつが載ってるのがあるんですよ。その文章に「俺たちはサイコビリーじゃねぇ」みたいなことが書いてあって、俺たちはガキのころ「これサイコビリーだよな? ヤベーじゃん」って言ってたのに(笑)。90年代前半ぐらいだったんで、ちょっとエクストリームも入ってきてる感じで、サイコビリーもどんどんクロスオーバーしてる時期だったんですよね。メタルっぽくなってきたり。

ISHIYA:サイコビリーは、基本的にどんな思想を持っているの?

柳家:Meteorsとかの取り巻きは、アメリカではだいたい組織的なバイク乗り。意外と国で違うんですよね。スペインでやった僕らのライブのときなんか3団体ぐらいやって来て、どういうのかな? って思ってた。あんまり深くは知らないですけど、ドラッグディーラーだったりバイク乗りだったりっていう人たちは、酒飲んでドラッグキメてグワーッてやるのがサイコビリーだと。もの凄い暴力的な空気だったんで、それがサイコビリーの醍醐味みたいにクローズアップされてるんだろうなと思いました。

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