GRAPEVINEのライブには“音楽だけ”があるーーロックバンドの理想を体現したツアー最終公演を見て

GRAPEVINEのライブには“音楽だけ”がある

 最新アルバム『ROADSIDE PROPHET』を中心とした全国ツアー『GRAPEVINE tour 2017』のファイナル、東京国際フォーラム ホールA公演。今回のツアーに関して田中和将(Vo/Gt)は「20周年イヤーを締め括るという意味もあるんですけど、基本的にはアルバムのツアーですね」と語っていたが、その言葉通りに彼らは“2017年のGRAPEVINE”をしっかりと体現してみせた。

 ライブのオープニングは新作『ROADSIDE PROPHET』収録のサイケデリックな静かさをたたえた「The milk(of human kindness)」、さらにシャープかつ重層的なギターアンサンブルとシャウトを交えたボーカルが響き渡る「EVIL EYE」と続く。さらにヘビィなブルースフィーリングを感じさせる「Suffer the Child」を披露した後、最初の田中のMCへ。

 「我々、20周年を迎えました。20周年といえばベスト盤とかトリビュート盤なんかを出したりするものですけど、いいアルバムを1枚作っただけです。今回のツアーにも特別な仕掛けや演出はないですが、これだけの人が集まってくれたということは、きっと各地でいいライブをやってきたからだと思います」「今日も自由にごゆるりと過ごしてくれたら嬉しいなと思います。僕らがいい演奏したら、拍手や歓声を送ってください。最後まで心をこめて演奏しますので、よろしく」

田中和将

 ギミックに頼らず、質の高い楽曲を作り、優れたライブを繰り返すことで現在のポジションを獲得してきたGRAPEVINEのスタンスを象徴するようなMCの後も、“音楽だけがそこにある”という純度の高いステージが続く。セットリストの中心はやはり『ROADSIDE PROPHET』の楽曲。美しい浮遊感を描き出すギターと〈きみを守るのは〉からはじまる「こめかみ」、オルタナ・フォークの進化形と呼ぶべき「Chain」といった新曲、「Silverado」(『真昼のストレンジランド』収録/2011年)、「Our Song」(『Circlulator』/2001年)などの過去の楽曲とナチュラルに混ざり合い、2017年のGRAPEVINEへとつながっていく。最初のピークはカントリー、ブルースのテイストを色濃く反映した「楽園で遅い朝食」からライブアンセムのひとつである「CORE」(『Sing』収録/2008年)の流れ。田中、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)による濃密で強靭なバンドグルーヴが会場全体を包み込み、大きな感動へと結びつく。深みのあるベースラインでアンサンブルのボトムを支える金戸覚(Ba)、オルガン、ギター、テルミンなどで楽曲に彩りを与える高野勲(Key)も素晴らしい。会場の音響バランスが非常に良く、GRAPEVINEの有機的なサウンドデザインが明瞭に体感できたことも記しておきたい。

 ライブ後半でも新旧の楽曲を織り交ぜ、美しく、激しいバンドサウンドを描いたGRAPEVINE。ツアーのなかでしっかりと練られた新曲を聴いていると、アルバム『ROADSIDE PROPHET』には、このバンドの良さが余すことなく凝縮されていることが改めて実感できた。オーセンティックなブルースロックを軸にしながら、サイケデリック、オルタナティブ、ポストロック、音響系などを自然に取り込み、独自のバンドサウンドを追求してきた彼ら。デビューからの20年間で到達した現時点での集大成が『ROADSIDE PROPHET』であり、それはベストアルバムよりも何倍も価値があるのだ。本編ラストは「今日は本当にどうもありがとう! このツアーありがとう! そして20年間ありがとう! この先の20年もよろしくな!」というMCに導かれた「Arma」。華やかで解放的なメロディとともに広がる〈物語は終わりじゃないさ/全てを抱えて行く〉というフレーズは、20周年を迎え、さらに先に進もうとする彼らの姿と強くリンクしていた。

 「会いにいく」(『イデアの水槽』収録/2003年)から始まったアンコールでは初期の楽曲を披露。代表曲「光について」(『Lifetime』収録/1999年)は普段“曲中はずっと暗く、最後に田中にピンスポットが当たる”という演出なのだが、この日はエンディングでステージから客席に向けて白い光を照射。オーディエンスにスポットを当てる演出に客席からはどよめきにも似た歓声が沸き起こった。さらに〈有楽町が気になりだす〉という歌詞を入れ込んだヘビィロックチューン「豚の皿」(『イデアの水槽』収録)、そして1997年のメジャーデビュー作『覚醒』の表題曲によってライブは幕を閉じた。

 この日の会場にも数多くのミュージシャンの姿が見受けられたが、自らが信じる音楽を追求し、流行におもねったり観客に媚びることなく、順調にキャリアを重ねているGRAPEVINEの姿は、まさにロックバンドの理想だ。現在のモードと培ってきたスキルをたっぷりと注ぎ込んだ新作をリリースし、これまでと同じように質の高いツアーを行い、音の良い大型の会場でファイナルを迎える。音楽性、演奏、アティチュードのすべてにおいてGRAPEVINEの魅力が存分に味わえる、最高の20周年ファイナルだった。

GRAPEVINE
西川弘剛
亀井亨
金戸覚
高野勲
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(写真=藤井拓)

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

GRAPEVINEオフィシャルサイト

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