GRAPEVINEが明かす、楽曲制作の現場で起きていること「良いメロを普通に仕上げるやり方は求めていない」

GRAPEVINEが求めるバンドサウンド

 GRAPEVINEが2月3日、通算14枚目のオリジナルアルバム『BABEL, BABEL』をリリースした。プロデューサーに高野寛を迎えた本作は、高い作曲センスを改めて印象付けた前作『Burning tree』を“さらに押し進めたい“との思いで制作されたという。今回のインタビューでは、実際の収録曲を手がかりに、自由度の高いバンドサウンドがどのようにして生まれたか、じっくりと語ってもらった。聞き手は音楽評論家の小野島大氏。(編集部)

「前作(『Burning tree』)をより押し進めたいなと」(西川弘剛)

ーー前作からちょうど1年。相変わらずリリースはコンスタントですね。

田中和将(以下、田中):今回はたまたま前のアルバムのツアーが終わりそうな頃ーー6月の後半ぐらいから、制作に入れたので、1年というタームで出せましたね。

ーーツアーの間には既に楽曲があったんですか。

田中:いえ、楽曲は全然なかったんです。時間の空いてる時にジャム・セッションをやって作っていきましょうと話して。

西川弘剛(以下、西川):ツアーが始まるぐらいの時から、次のアルバムをどう作るかというミーティングをずっとしてたんです。で、早めに取りかかっていこうという結論だったんですね。今ライブは週末しかやってないので、週の半ばとかすごいヒマなんですよね。機材さえ東京に帰ってきてくれれば、スタジオに入ってジャム・セッションはできるので。

田中:曲もゼロから作ることが多いので、早めにスタジオに入って形にしていこうと。

ーー少しは間を置こうとは思わなかったんですか。

西川:2年でアルバムを2枚リリースするプランだったんで。それを考えると、それぐらいから始めたほうがいいかなと。

ーー最近楽曲はジャム・セッションからできることが多いんですね。

西川:誰かが持ってきたものから構築していく場合もあるし、なきゃないでジャム・セッションで1から作ろうかなと。両方ですね。

ーーどういうアルバムにしようという話し合いはあったんですか。

西川:具体的には特になかったんですけど、その時話に出たのは、前作の延長線上にあるものを作る方向がいいかなと。それを進めるにあたってどういうプロデューサーを立てるのがいいかなという話をずっとしてましたね。

ーー前作はけっこう手応えがあった。

西川:僕自身はすごく満足してて、あれをより押し進めたいなと思って。そのために新しい血を入れ替えるというか、プロデューサーに力を借りようと。

ーーそれが高野寛さん。

西川:いろんな候補があがってて、かなり話し合った結果高野さんにお願いしました。

ーー前作はGRAPEVINEの歴史の中でどういう位置づけにある作品なんですか。

田中:位置づけ…は難しいけど、作品としてはなかなかいいのができたと思ってますし、それまでやってきたことの集大成として、いいところは出せたんじゃないかという感触はあります。客観的に見るのは難しいですけど。

ーーレーベルも事務所も移籍第一弾だったわけですよね。新しいスタッフも加わって、新たな刺激があったんじゃないですか。

田中:そうですね。特にビクターの担当ディレクターは僕らより若い世代で、こういったタイプの楽曲を作ってみませんか、とか。その通りに作るわけではないけど、そういう意見を積極的にくれるのは非常に嬉しかった。とっかかりになりますから。それで前作の『Burning tree』はできたりしました。そういうモチベーションには繋がったんじゃないかと思います。

ーーなるほど。

田中:移籍することで考える時間もできましたからね。バンドのあり方とか音楽業界とか。そういうところではすごく刺激になったと思います。

ーーそういう刺激があって、前作では自分たちのどういう部分が出せたと思いますか。

亀井亨(以下、亀井):時間があったので、結構作り込んだ作品になったんです。セルフ(・プロデュース)でやったもののひとつの完成形みたいなものにはなったかな、と思いますね。こうやれば自分たちで作れる、という。

ーー今作ではそこで得た手応えを発展させるようなものを作りたかった。

西川:そうですね。

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田中和将

「(高野寛さんは)外れた、壊れた部分もちゃんと理解してくれる方」(田中和将)

ーー高野さんになった決め手はなんだったんですか。

西川:候補はたくさんいたんですが、高野さんは一番守備範囲が広いんじゃないかと思ったんです。僕らの要求をちゃんとわかってくれて、ギター・バンドに対する理解も広いイメージがあり、かつエレクトリックな部分も強いんじゃないかと。

田中:全然接点はなかったんですけど、高野さんがアート・リンゼイとジャムってる映像を見まして。ギターですごいインプロヴァイズしてるんですけど。あ、こういう振れ幅を持ってらっしゃる方なんだなと思いまして。それでたまたま、とあるイベントでご一緒させてもらったんですよ。その時にちょっと探りを入れてみて(笑)。ほかにもたくさん候補の方はいらっしゃったんですけど、まったく楽曲のない段階でプロデューサーだけ先に決めるという流れがあったので、そういう意味で幅のある、応用の利く人がよかったというのもあります。

ーー高野さんといえば一般にはポップな歌ものが得意という印象もありますが、むしろそうでない部分が魅力的だった。

田中:そうですね。僕としてはそういう外れた、壊れた部分もちゃんと理解してくれる方なんだろうなと、というところが決め手になったところもありますね。

ーーもともと山本精一さんとやってたような方ですからね。

田中:ええ、ええ。そういうところに惹かれたというのはあります。

ーー高野さんとはどういうお話をされたんですか。

西川:最初リハスタで僕らがジャムセッションをやってる時に遊びに来てくださって。そのあと一緒に飲みにいったんですね。その時に話したのは、もうワン・アイディア欲しい場面は一杯あるので、そういうところは遠慮なく言ってほしいと。血を入れ替えたい場面はたくさんあると思うから、どんどん言ってもらえると嬉しいみたいな話はしました。

ーー高野さんはGRAPEVINEに対してどれだけ予備知識があったんですか。

西川:それは聞いてないですけど、想像するに、もう18年とかやってるバンドなんで、入りづらいだろうなと(笑)。そこにポンとよその人がやってきて、なんでもいいから好きに言ってくださいと言われても、なかなか難しいだろうなとは思いましたけど、そこは遠慮なくなんでも言ってくださいと。きれいにトリートメントしてほしいわけじゃないから。

ーーむしろ自分たちの殻を壊してくれるぐらいの。

西川:そうですね。目からウロコみたいなアイディアがたくさんあればいいな、ぐらいの気持ちでお願いしました。

ーー今回高野さんがプロデュースしたのは全部亀井さんの曲ですね。

亀井:それはたまたまですね。高野さんが関わってくださる時期が限られてたので、その時期にできあがってもっていったのがたまたま僕の曲が多かったので。

ーー亀井さんの楽曲はどの程度完成させてバンドに持ち込むんですか。

亀井:家で1コーラス分ぐらいの簡単なデモテープを作って、みんなに聞いてもらって、だいたいのイメージを説明して、あとは全員で広げていくという作業ですね。

田中:亀井君が持ってきてくれる曲は、ジャム・セッションをするネタみたいなものなんですよ。彼が作ったメロディとコード進行があって、それをとっかかりとしてジャム・セッションをする。作曲クレジットが"GRAPEVINE"になってるのは、元となるメロディもコード進行も何もない状態でジャム・セッションして作った曲、という違いなんです。この曲がどういう曲でどういう方向に持っていくのか、見定めなければいけないんですけど、そこで言葉を交わして話し合うというよりは、とにかく音を出すうちに定まっていく。

ーーなるほど。

田中:たとえば「SPF」で"ジェイムス・イハみたいな曲"というイメージがあれば、それを伝えてもらってみんなで共有したうえで、さあどうしていくか、という話です。

ーーそこで高野さんも加わって、チームのひとりとしていろいろ意見を言う。

田中:そうです。そこでパッと電気が点いた人がいれば、いろいろアイディアを交わして付き合わせながらやっていく。

ーー高野さんとやってみて面白かったことはなんですか。

田中:最初プリプロに来てくれてる時は、きっと遠慮がちだったと思うんです。こちらもそれなりに長くやってるバンドなんで、暗黙のルールみたいなものがきっとあるはずだから、外の人から見れば。最初はそういうものを探りながらの様子見だったと思う。でも高野さんにもうワン・アイディア、もう一ひねりみたいなものを求めたいという趣旨はすごく気にしてくれてたと思うんです。そこで手際よくその場でシーケンスを組み立ててくれたりとか、そういうことはいろいろしてくれましたね。

ーー長年やってきたGRAPEVINEの癖やルーティンに高野さんの新しいアイディアを加えて違うものに変えていった。

田中:もちろんまったく違うものを求めてはいるんですけど、曲にとってうまくいくかどうかが大事なんで。だから結果的にみればそう大きな変化があったわけではないかもしれないけど、けど高野色は確実に出てるし、高野さんがいなければこういう形にはならなかったと思いますね。アレンジ、構成、音色…演奏にも1曲参加してもらってます。

ーー高野さんがクレジットされてない曲は、バンドだけで仕上げたわけですね。

田中:そうですね。ただわりと早い段階からプリプロに来ていただいてたので、プロデュース名義になってなくてもアイディアをくれてる曲は何曲かあります。

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