藤巻亮太は、表現の基本に立ち返ったーー3rdアルバム『北極星』を聞いて
レミオロメンで歌うには適さない、でも曲として湧き出てきてしまう自分のダークな部分、重たい部分を吐き出したのが1stソロアルバム『オオカミ青年』。
それを作ってすっきりしたと同時にソロをやる動機を失い、一度途方に暮れるも、世界各地の秘境を旅したり自分自身と向き合う時間を重ねたことで、それでも今歌いたいこと、音楽にしたいことを自身の無意識の中から探し出して形にすることに成功した2ndアルバム『日日是好日』。
そして、自分がなぜ曲を作るのか、なんのために歌を歌うのか、という、そもそもの基本に立ち返ったところから生まれた曲が並んでいるのが、9月20日にリリースされた藤巻亮太の3rdアルバム『北極星』だ、ということになると思う。
その「そもそもの基本」が何かというと、「人に何かを伝えるため」とか「コミュニケーションのため」といったごくあたりまえなことになるのだが、ごくあたりまえなだけに、ごくあたりまえな言葉とメロディでは、人に刺さらない。藤巻亮太にしかなし得ない表現になっていないと意味がない。どの曲においてもそれが理想的に形になっているのが、このアルバムだとも言える。
チベットを旅した時に山中で目撃した「逆さ雷」(稲光が下から上へ向かって走る雷)から発想を得て、雷は電子の橋だ、音楽を作ることも橋をかけることに近いんじゃないか、と思った気持ちを歌にした「Blue Jet」。
我々の生きてる世界はデジタルではない、1から2に上がるわけではなくて1と2の間に無限に無理数がある、という気づきを形にした「another story」。
自分のメンタルは、360度山に囲まれた、甲府盆地で生まれ育ったことで形成されている、「あの向こうに何があるんだろう、見てみたい、知りたい」という気持ちから自分は始まっている、という自覚から始まった「紙飛行機」。
地元の公民館を借りて曲作りをしていた時、その場所も相まって「これが自分なんだ」という原点を見つめるところから発想が始まり、自分にとって大切な人たちへの思いへと行き着いた、まるで祈りのような「北極星」ーー。
中でも耳を強く捕えるのは、フォーク的な言葉をメロディに詰め込むタイプの曲にのせて、〈どこへ向かったっていいさ ほら自由で小さな 魂をポケットに詰め込んで旅に出たんだ〉と歌い出される5曲目「マスターキー」だ。
「ソロのファーストアルバムを出したら空っぽになってしまって、『何もない、次どうしようかなあ』っていう時期から何を学んだかっていうと、状況が大変な時って、どうしても、自分以外のもののせいにしたくなったりするじゃないですか? で、自分以外のものを変えようとしますよね。それって、エネルギーの使い方としては間違っていて。変わるべきは自分自身なんですよね」
「自分自身が変われば、状況の見え方が変わって、状況の見え方が変われば、考え方の順序も変わって、それまでつらかったものがつらくないものになったりするわけです。世界が変わるんじゃなくて僕が変わるんだ、ってこと。要は、自分自身がマスターキーなんだって思ったんです。いろんな鍵穴に対して自分が変わっていけばいい、それで扉を開けて次の世界に行けばいいんだ、っていう」
藤巻亮太にこのアルバムの全曲解説インタビューをした時、彼はそう話してくれた。個人的にそれ以来、この曲と彼のこの言葉は、日常生活の中でしょっちゅう思い出す、大事なものになっていたりする。「あ、今また人のせいにしようとした、俺」というふうに。
要は、すごく影響を受けたということです。
そして、藤巻亮太の場合、自分が歌いたいこと・歌うべきことが明確になればなるほど、それに比例してメロディの解放感がアップしていく、という傾向がある。
そもそもメロディというもの自体、その響きや抑揚だけで、人を高揚させたり幸福な気持ちにさせたりする作用があるが、おそらく最大値のそれを持っているのが、藤巻亮太の作る、自在で、意外で、でっかい抑揚とタイム感を持ったメロディだ。
レミオロメンでいうと2ndアルバム『ether』から3rdアルバム『HORIZON』にかけての時期に匹敵するくらい、それが発揮されているのが、この『北極星』というアルバムだと思う。
ここまでのびのびとした、まるで解き放たれたような藤巻亮太のメロディを聴くの、ほんとにその頃以来な気がする。
と思っていたら、最初に聴いて数日経ってから、神宮司治と前田啓介が、このアルバムの数曲に参加していることを知って、びっくりした。
前田啓介は「Blue Jet」「Have a nice day」「マスターキー」、神宮司治は「優しい星」「紙飛行機」に参加。
つまり、このアルバムの軸を担っていたり、重要なキーになっていたりする曲に、彼らが参加しているということだ。何か、「なるほど」と思いました。
あと、どの曲も、「バンドサウンドだからメンバーに頼んだ」というわけでは必ずしもないのも、何かを示しているような気もする。多少なりともギターバンドっぽい音作りなの、「Have a nice day」くらいだし。
なお、神宮司治参加の「優しい星」は、三井アウトレットパーク「ウインターセール」のCMで流れています。藤巻の曲、冬感のあるシチュエーションにとてもハマることが、観るとよくわかります。
年末感とかクリスマス感みたいな空気を常に持っているのは、「粉雪」の印象が強いからじゃなくて、何か賛美歌みたいな響きを持っているからだと思います。
というか、賛美歌なんだと思います、ある意味。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。
■リリース情報
『北極星』
発売:2017年9月20日(水)
【初回限定盤】¥3,300(税抜)
※初回限定盤のみスリーブケース仕様、ボーナストラッックとして「LIFE」「3月9日」を収録
【通常盤】 ¥3,000(税抜)
〈収録曲〉
01 優しい星
02 Blue Jet
03 Have a nice day
04 another story
05 マスターキー
06 波音
07 go my way (TVアニメ「エンドライド」エンディングテーマ)
08 紙飛行機
09 北極星 (「リブ・マックス ホテルズ&リゾート」TVCMソング)
10 愛を
11 Life is Wonderful
Bonus Track(初回限定盤のみ収録)
12 LIFE (『ツール・ド・東北』公式テーマソング)
13 3月9日 (大塚製薬「カロリーメイト」CMソング)