Hi-STANDARD、『The Gift』は人とのつながり重視した“ギフト” チャート1位までの軌跡を追う

 10月4日にリリースされたHi-STANDARDのニューアルバム『The Gift』は、バンドにとって18年ぶりのフルアルバムだったにもかかわらず10月16日付オリコン週間アルバムランキングで堂々の初登場1位を記録した。国内外トータルで100万枚以上を売り上げた名作『MAKING THE ROAD』(1999年)でさえ最高3位だったことを考えると、この記録は快挙と言える。また、アルバム『The Gift』と同日に“無告知で”リリースされたライブDVD『Live at AIR JAM 2000』も同日付オリコン週間DVDランキングで総合1位。さらに翌週の10月23日付同ランキングでも総合1位に輝き、インディーズレーベルのアーティスト作品による2週連続DVD総合1位という初の快挙を成し遂げた。

 Hi-STANDARDは昨年10月、実に16年ぶりの新作となるシングル『ANOTHER STARTING LINE』を“無告知で”発表した際にも1位を獲得しており(これが彼らにとって、初のオリコン週間ランキング1位だった)、これにより(インディーズレーベルのアーティストが)「シングル/アルバム/DVDすべてのチャートで1位」という大記録を、精力的に活動していた90年代ではなく活動再開後に達成したことになる。もちろん、数字がすべてではないのは承知の上だが、これだけCDが売れなくなったと騒がれる時代にこういった結果をしっかり出したのは評価に値するのではないだろうか。「10数年ぶりの新作」という限定されたシチュエーションだったとはいえ、「事前の情報告知を一切せず」に「店頭で購入すること」を念頭に置き、「店頭で商品を手に取った人が情報を拡散する」というこの一連の流れは、音楽業界に身を置く者ならいろいろ感じることがあったはずだ。

 シングル『ANOTHER STARTING LINE』リリース時の様子およびそこまでの経緯については昨年、本サイトにてまとめさせてもらったのでここでは割愛するが(参照:Hi-STANDARD、突如リリースの新作はどう広まった? “フラゲ日”以降の盛り上がりを追う)、今回は18年ぶりのアルバムと、そのアルバムと一緒に事前告知なしで突如店頭に並んだライブDVDについて書いていきたい。

 まず、今年の7月13日午前中、都内数カ所のアドボードにHi-STANDARDのニューアルバム発売を告知する看板が掲出されていることが、SNSを通じてファンから報告された。看板にはバンドのライブ写真とバンドロゴ、そして「New Album」「THE GIFT」「2017.10.04 In Stores」という文字が掲載されており、ご丁寧にCD品番と価格まで記されていた。この情報がファンの撮影による写真とともにSNS上でどんどん拡散されていくも、バンドおよび所属レーベル〈PIZZA OF DEATH RECORDS〉からは一切コメントなし。まさかバンドとまったく関係ない人間がこんなに手の込んだドッキリを仕掛けることも考えられず、正式発表こそないものの「Hi-STANDARD 18年ぶりのアルバム発売」は間違いない事実だと、往年のファンや再始動後に彼らを知った若年層は大いに喜んだ。

 それから1週間後の7月20日、バンドおよびレーベルはついに沈黙を破りアルバム発売、そして秋からの全国ツアーをアナウンス。それ以前は「どうやら発売されるらしい」と推定で情報を取り上げた各WEBメディアにも、ここで晴れて「正式決定」と断定することができた。意地悪な見方をすれば、今回のやり方は現在の情報過多なWEBメディアに対して一石を投じたと受け取ることもできるが、実はそうとも言い切れない部分もある。例えば今回のアルバムに関して、レーベルは8月下旬にアルバムジャケットや収録曲名を早々に公開しており、そこについては昨年のシングル時とはやり方が異なっている。

 実は今回の場合は『The Gift』というアルバムタイトルにすべての理由が隠されているのではないか、と感じている。情報解禁日時を指定し、横並びで各媒体で告知をするやり方も確かに効果がある。しかし、Hi-STANDARDやレーベルは「情報を掲載してくれるメディア」ではなく、その先にいる受け取り手……実際にCDを購入して聴いてくれるファンに真っ先に知らせたかった。しかも、スペシャルなやり方で。そうすることが、情報を見つけたファンにとってそれが大切な“ギフト”になるとわかっていたから。もちろんこの方法が毎回通用するわけではないし、すべてのアーティストがこうするべきとも思わない。ただ、90年代からファンやリスナーと同じ目線で活動してきたHi-STANDARDというバンドにとって、『The Gift』と題した“18年ぶりのアルバム”に対してはこの方法が有効だった。それだけのことなのだ。

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