スピッツ、ドリカム、原田知世……ヒット曲・人気曲の“新たな魅力”をどう伝えていく?

 キャリアの長いアーティストにとって、ヒット曲、人気曲をどのようにリユースし、新しい作品として提示できるかは、きわめて大きなポイントだと思う。過去の作品を上手く再提案できれば、離れていたファンへのアピールはもちろん、新たなリスナーの掘り起こしにもつながるからだ。そこで今回は、ベスト、トリビュート、カバーなど、既存の楽曲の魅力を新しい角度で伝えることに成功している作品を紹介したい。

スピッツ『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』

 1987年6月の結成以来、“メンバーチェンジなし、活動休止なし”で30周年を迎えたスピッツのシングルコレクション『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』。デビュー曲「ヒバリのこころ」、「空も飛べるはず」、「メモリーズ」などのヒット曲から最新シングル「みなと」までをコンプリート。30年の軌跡が詰まった本作は、スピッツの入門編として最適だろう。中心にあるのは草野マサムネの歌なのだが、ネオアコ、オルタナ、ポストロックなど、海外のギターロックの影響を受けながら、じつは時期によって大きくサウンドが変化していることも興味深い。もうひとつの注目は、「“ビートパンクバンド・スピッツ”の新曲という想定で」(草野)というコンセプトで制作された新曲「1987→」。パンキッシュな音像と切ないメロディを融合させたこの曲には、メンバーのなかに現在も強く宿っている“ロックへの渇望”がしっかりと刻まれている。

スピッツ / 1987→
V.A.『The best covers of DREAMS COME TRUE ドリウタVol.1』

 出荷枚数100万枚を突破したベスト盤『DREAMS COME TRUE THE BEST 私のドリカム』(2015年)のヒット以来、数々のヒット曲にスポットが当たり、幅広いリスナーから再評価されているDREAMS COME TRUE。吉田美和(Vo)により“ドリウタ”と名付けられた本作『The best covers of DREAMS COME TRUE ドリウタVol.1』は、GACKT、三浦大知など、人気アーティスト10組が思い入れのあるドリカム・ナンバーをカバーした作品。原曲の魅力を違った角度から感じられると同時に、それぞれのアーティストにドリカムの良さをアピールできる作品に仕上がっている。個人的に印象的だったのは、エレクトロニカ的なテイストを取り入れた坂本真綾の「三日月」(選曲も渋い)、ギターサウンドを押し出した山本彩の「何度でも」、感情豊かなボーカル力を存分に発揮したD-LITE(BIGBANG)の「笑顔の行方」。そこから伝わってくるのは、“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としても評価される、ドリカムの底知れぬ音楽性だ。

『The best covers of DREAMS COME TRUE ドリウタVol.1』全曲ダイジェスト
原田知世『音楽と私』

 デビュー35周年を迎えても清廉なイメージがまったく変わらない原田知世の、「時をかける少女」(1983年)から始まった歌手としてのキャリアを代表する楽曲を対象にしたセルフカバーアルバム『音楽と私』。松任谷由実、大貫妙子などのペンによる楽曲でヒットを重ねた80年代、トーレ・ヨハンソン、ウルフ・トレッソンといったスウェディッシュ・ポップに接近した90年代、ジャズ、ボサノバなどを取り入れながら音楽的な成熟へとつなげた00年代以降の楽曲をバランスよく取り上げ、盟友とも言える伊藤ゴローがリアレンジ。品の良さ、趣味の良さがさりげなく伝わってくる、上質のポップアルバムに仕上がっている。自分自身の美意識、価値観をしっかり守り、豊かな奥行きを感じさせるポップミュージックを体現し続けた、原田知世の“現在”がここにある。

原田知世 - 「時をかける少女」

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