村尾泰郎の新譜キュレーション 第12回
The Magnetic Fields、Le Ton Mité……宅録的サウンドによるストレンジでポップな音楽
スタジオでゴージャスに作り上げたサウンドも素晴らしいが、ひとり多重録音で作り上げたサウンドにはリッチな妄想がたっぷり詰まっている。今回は手作り感溢れるサウンドと、ちょっと奇妙な世界を楽しめる新作を紹介。
まずは、USインディーのベテラン、ステフィン・メリットのメイン・プロジェクト、The Magnetic Fields。これまでステフィンは、生楽器とシンセでローファイなポップ・ソングを作り続けてきた。そんななか、新作『50 Song Memoir』はステフィンにとって人生の節目となる大作だ。今年52歳となるステフィンは、1966年から50歳を迎えた2015年まで、1年につき1曲、家族のこと、友達のこと、ロックとの出会いなど、様々テーマで全50曲を書き下ろして、それを10曲ずつ5枚のCDに収録した。友達とのこと、シンセとの出会いなど、アレンジや音作りに工夫を凝らしながらバラエティ豊かに作り上げた本作は、まさに歌う回想録。マッチ売りの少女がマッチをする間に夢を見るように、歌を通じてステフィンの人生の断片が浮かび上がる。
そして、The Magnetic Fieldsと同じく50曲収録されているのが、Le Ton Mitéの『Passé Composé Futur Conditionnel』(日本盤はボーナストラックを1曲追加)。Le Ton Mitéは、アメリカ出身のミュージシャン、マクラウド・ズィクミューズのソロ・プロジェクト。ズィクミューズは現在はベルギーで活動中だが、久し振りにアメリカに帰国した時の体験をもとに作り上げられたのが本作だ。アメリカで見た風景、聞いた話からインスパイアされた曲の数々は、曲の途中でふいに途切れたり、あっという間に通り過ぎたり、まるで記憶がフラッシュバックするようだ。ロック、エレクトロニカ、ジャズ、クラシック、アバンギャルドなど曲調は多彩で、イメージのスクラップブックみたいな楽しさに満ちている。また、本作のデモトラック23曲を集めたカセットテープ『過去の状況 未来の作曲』も限定リリースされていて、そのアイデアの源泉ともいえるサウンドもおすすめ。