村尾泰郎の新譜キュレーション 第11回
The Flaming Lipsが生み出す新たな白昼夢ーー“サイケデリック”を更新する新譜5選
ひとことで「サイケデリック」といっても、その表現の仕方は様々。混沌としたものもあれば、余白だらけのサウンドで異空間を生み出すこともある。今回はサイケデリックな感覚を持ちながら、メロディーを大切にした歌をしっかりと聴かせる新作を紹介したい。
まずは、30年以上に渡ってサイケデリックなロックを探求してきたThe Flaming Lipsの3年ぶりの新作『Oczy Mlody』。デビュー以来、60年代サイケデリック・ロックを独自に昇華してきた彼らだが、本作はシド・バレットとラッパーのエイサップ・ロッキーにインスパイアされたらしい。バレットはサイケ好きなら外せないアーティストだが、ラッパーのエイサップ・ロッキーからも刺激を受けているあたりがThe Flaming Lipsらしいところ。ヒップホップやエレクトロの音作りからもヒントを立体的な音響空間が広がるなか、メロディーはメランコリックでコインの歌声は子守唄のように優しい。最近のThe Flaming Lipsは深く沈むこむような内省的なムードが特徴だが、本作もThe Flaming Lipsというゆりかごに揺られながら、白昼夢を見ているようなアルバムだ。
The Flaming Lipsの作品にも参加して親交が深いのが、ジョナサン・ラドーとサム・フランスによるカリフォルニアのデュオ、Foxygenだ。昨年、ラドーがプロデュースしたThe Lemon TwigsやWhitneyのデビューアルバムが話題になったことで、最近ではUSインディー・シーン新世代の兄貴分的な雰囲気もある彼らだが、新作『Hang』では40人編成のオーケストラと共演。そのオーケストラ・サウンドは、タガが外れたヴァン・ダイク・パークスのようにドラマティックで変化自在だ。さらにThe Lemon Twigs、スティーヴン・ドロゾ(The Flaming Lips)、マシュー・E・ホワイトなど個性的な面々をゲストに迎えて、引き出しの多いポップ・センスを全開にしつつ、芝居っけたっぷりの歌声で遠慮なしに歌いまくる。ルイス・フューレイを彷彿させるような官能的で毒気たっぷりな歌は、世紀末のキャバレー・ソングのようでもあり、「フォクシジェン劇場」なんて呼びたくなるような奇妙な世界へと誘ってくれる。