リトグリ、Pentatonix、Fujikochans……レジーが読む「いま、コーラスアルバムを作る意味」

レジーが読む「今、コーラスアルバムを出す意味」

 アニメ『ルパン三世』シリーズの音楽の作曲家として知られるジャズピアニストの大野雄二。これまでも大野雄二トリオ、Yuji Ohno & Lupintic Fiveなど様々な名義で活動してきたが、今度は自身のライブでお馴染みの佐々木久美・TIGER・佐々木詩織からなる女性3人組コーラスグループのFujikochansをプロデュース。3月15日にリリースされた彼女たちのデビューアルバム『introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends』は、Yuji Ohno & Lupintic Sixを中心としたメンバーによるジャジーな演奏をバックに女声ハーモニーの美しさと楽しさを堪能できる1枚となっている。

 「日本語のジャズ・アルバムを出すことは長年の念願だったね」とは本作のライナーノーツに寄せた大野の弁。“ジャズのコーラスアルバム”と言われると特定のリスナー以外からは敷居の高いものに感じられてしまうかもしれないが、「ルパン三世のテーマ」「銭形マーチ」などルパンシリーズ有名楽曲のジャズアレンジも収録されている今作の肌触りはとても人懐こい。ビッグバンド風の「涙のレイニーデイ」からラテンな雰囲気を漂わせる「恋のカルナバル」、AOR的な心地よさのある「ラブ・スコール」(アニメ『ルパン三世』のエンディングテーマである)など多様な楽曲で構成されるこのアルバムには、華やかなショーを見ているかのような開放感がある。

 今作に関する大野の「3人がいつもハーモニーで歌うのが前提」「“全部がハーモニーになってる歌って、こんなに気持ちいいんだよ”ということを、もっと伝えていきたいと思ったんだ」というコメント通り、今回のプロジェクトのキーワードは「ハーモニー」である。ところで、ジャズというジャンルに限らず「日本のポップミュージック全般においてハーモニーを売りにするグループ」について考えてみると、真っ先に想起されるのはゴスペラーズだろうか。1994年からメジャーレーベルで活動するベテラングループは、3月22日に15枚目となるオリジナルアルバム『Soul Renaissance』をリリースするなど精力的な活動を続けている。また、若手では今年1月にメジャーデビューから2年強で武道館公演を成功させたLittle Glee Monster(以下リトグリ)の活躍も見逃せない。

 2000年以降のJポップにおけるコーラスグループの動向を振り返る際、起点として浮上するのが2000年~2001年におけるゴスペラーズ「永遠に」「ひとり」のヒットと2001年に始まったテレビ番組『ハモネプ』(当初はバラエティ番組内の一企画)である。特に「ハモネプ」の若年層への影響は絶大であり、中学生~大学生における学生アカペラ文化の浸透にかなり寄与している(リトグリのメンバーにも『ハモネプ』出演経験者が含まれている)。一方で、『ハモネプ』はメディアとしてのキャッチーさを担保するべく「圧倒的なボーカル力」「驚異的なボイスパーカッション」といった個人技をフォーカスすることが多く、視聴者も実は「優れたハーモニーを楽しむ」こと以上に「“びっくり人間ショー”的に消費している」という側面が大きかったように思える(ここ最近人気が上昇しているアメリカのアカペラグループのPentatonixの人気もそういった観点から説明できるのではないか)。

 2000年初頭に端を発するコーラスグループ(アカペラグループ)のブームから定着、そして最近のリトグリやPentatonixの人気拡大といった流れに対して、これまであまり注目されてこなかったのが、今回大野雄二が取り組んでいるジャズコーラスである。リードボーカル単体の歌唱力を押し出すのではなくメンバー全員が同じ歌詞でハモって複雑な和音を聴かせるようなアレンジが特徴的で、派手さのある音楽ではないゆえに大きな注目を集めることは決して多くなかった。しかし、前述の学生アカペラ文化においてはコピーされる楽曲の定番として機能してきたし(トライトーンというグループが代表格である)、2008年にはスウェーデンのジャズコーラスグループのThe Real Groupがくるり主催のフェス『京都音博』に招待されるなど、コーラス主体の音楽における一つのジャンルとしてしっかりした地位を築いている。

 「ハーモニーを起点にしつつ、リードボーカルやボイスパーカッションの技巧を押し出すためのコーラス」と「ハーモニーそのものを聴かせるコーラス」。前者の流れが直近改めて盛り上がりを見せる中、日本の音楽界の大ベテランが『ルパン三世』という知名度のあるフックを使って後者のアプローチに接近しているのはなかなか興味深い展開である。対極をなすようなアウトプットが揃うことでジャンルが活性化するのはどんな領域にも共通する法則だと思うが、『introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends』はまさにそういった役割を担う作品として十分な魅力を持っている。ジャズファン、ルパンファン、大人のコーラスファンだけでなく、「リトグリしか知らないけどハモリは好き、楽しそう」というような若い層にこそぜひ聴いてほしいアルバムである。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。
Twitter
レジーのブログ
レジーのポータル

■リリース情報
Fujikochans『introducing Fujikochans with Yuji Ohno & Friends』
発売:2017年3月15日(水)
定価:¥3,000(+税)
Blu-spec CD2

<収録曲>(全13曲)
1. 憧れのニューヨークシティ
2. 涙のレイニーデイ
3. 銭形マーチ
4. シークレット・デザイアー
5. 恋のカルナバル
6. ルパン三世のテーマ
7. ラブ・スコール
8. Sing a Song
9. ミスティ・トワイライト
10. Crescent Dream
11. ショコラみたいなキスをして
12. ヴェネツィアにさよなら
13. Fujikochansのテーマ

<オンラインサイト試聴リンク>
Amazon
TOWER RECORDS
VAP official site

■ライブ情報
『ルパン三世コンサート~LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2017~』
2017年5月14日(日)東京キネマ倶楽部
開場16:30 / 開演17:30
出演:Yuji Ohno & Lupintic Six with Fujikochans
詳細:http://www.vap.co.jp/ohno/info/index.html

大野雄二 オフィシャルWEBサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる