ドレスコーズ志磨が語る、強靭な音楽を求める理由「20世紀と同じテーマの歌なんて書いてられない」

ドレスコーズ志磨が生む、時代を映した作品

「今回のアルバムのいちばんの達成はビートであり、アレンジであり、ミックス」

ーーなるほど。ファンクって、高い演奏技術が必要な音楽じゃないですか。

志磨:そうなんです! その話もぜひしたくて。

ーーボウイの最後の作品『★』にはマーク・ジュリアナ、ティム・ルフェーブル、ダニー・マッキャスリンといった錚々たるミュージシャンが参加していましたが、“それを日本でやったら、こうなる”というのが『平凡』じゃないかなと。

志磨:それはすごく嬉しいですね。ミュージシャンに関しては、このメンバー(POLYSICSのハヤシ、ZAZEN BOYSの吉田一郎、skillkillsのビートさとし)が僕の第一希望だったんです。「この人たちが参加してくれたら、すごい作品になるだろうな」と思ったし、なんとか時間を都合してもらって。レコーディング期間は1週間しか取れなかったけど、アレンジも録音も、そのなかで全部やったんですよ。

ーー参加メンバーはどんなふうに決めたんですか?

志磨:リズム隊の2人はすぐに浮かんできたんですけど、ギタリストはどうしようかな? って思って。ブラックミュージックが得意なギタリストではなくて、自分がイメージしていたのはニューウェイブの頃のギタリストなんです。Pigbag、James Chance and the Contortionsのような、パンクを通過してファンクに辿り着いた人たちのアプローチというか。

ーーあとはTalking Headsですよね。

志磨:アルバムの制作が始まったのは去年の3月くらいなんですけど、その頃からいろんな人に言いふらしてたんです。「次のアルバムはTalking Headsみたいな感じでやるから」って。ちょうどその頃に『ストップ・メイキング・センス』が渋谷の映画館で始まって、「すごい! もしかして、Talking Headsのブームが来るのか?」と思ったり。まあ、そんなものが来るはずもないんですけど(笑)、シンクロニシティというか、いろんなことが重なってたんです。しかも同じ時期に「最近、POLYSICSがTalking Headsみたいな曲をやってるらしいよ」という話を聞いて。そのときは「やばっ! カブった!」って思ったんだけど、「ハヤシさんにドレスコーズでも弾いてもらえればいいんじゃないか?」って。

さらに在日ファンクのホーンセクションに参加してもらって、一郎くんが来れないときにScoobie Doのナガイケジョーくんに弾いてもらって。METAFIVEのゴンドウトモヒコさんにもアレンジャーとして参加してもらったし、本当に理想的な環境でしたね。とにかくハヤシさん、吉田一郎くん、ビートさとしくんという布陣でレコーディングできたのが、このアルバムのいちばんの勝因でしょうね。ハヤシさんも(イチローくん)も曲が書けるし、アレンジもできるじゃないですか。だから、ストレスが一切なかったんです。僕が作ってきたデモをもとに演奏して、「こういう方向にしよう」ってアイデアを出し合って……。

ーーセッション的な作り方だったんですか?

志磨:そうですね。「common式」「平凡アンチ」「規律/訓練」みたいなワンコードのファンクは、ほぼ即興です。「こういうアレンジにしたい」って説明しなくても、全員がすぐに理解してくれたんですよ。同じイメージを共有できたというか、想像していたものが一緒だったというか……うーん、いい言葉が見つからないな。どうして説明が難しいかというと、スタジオでほとんど話をしてないからなんですよね。実際に演奏すれば、修正する角度、その曲が向かうべき目的地がすぐに見えたので。2テイク目でほぼ形になって、「じゃあ、もう1回やってみようか」って3回目のテイクで完成するっていう。3テイク以上やった曲はほとんどないし、それはもう凄まじい集中力でした。

ーーすごい。当たり前ですけど、演奏の技術って大事ですよね。

志磨:うん、ホントに。みなさん素晴らしい演奏をしてくれたし、特にビートさとしを発見できたのは、ここ最近の喜びのひとつですね。彼はすごいドラマーですよ。昨今の海外のニューソウル、たとえばD’Angeloのドラマー(クリス・デイヴ)と肩を並べるような人だと思うので。彼のタイム感って、日本人離れしてるんですよね。前のめりでもないし、バックビートでもなくて、絶妙なタイム感で演奏できるので。いっぱい勉強させてもらいました、彼のドラムからは。よく思うんですけど、ロックバンドって、ビートに対してけっこう無頓着だったりするんですよ。「8ビートを速く叩ければいい」って思ってる人も多いし、肝心のグルーヴがほったらかしになってるので。どうしても迫力ばかり追求しちゃうんですよね、グルーヴじゃなくて。

ーー『平凡』のグルーヴ感は、2017年の日本の音楽シーンのなかでは完全に際立っていると思います。スタジオでの作業も高揚感があったのでは?

志磨:そうですね。エンジニアの渡部高士さんを含めて、いい緊張感がずっとあったし、「これはヤバいものが出来る」という確信もあったので。参加してくれたミュージシャンにはそれぞれにパーマネントなバンドがあるじゃないですか。でも、レコーディング中はこのアルバムにすごく思い入れを持ってくれていたし、「参加できて良かった」って言ってくれて。それも嬉しかったですね。

ーーちなみにゴンドウさんはどういう関わり方だったんですか?

志磨:この作品は“12曲でひとつ”というコンセプトアルバムなんですけど、なかでも象徴的な曲を選んで、アレンジしてもらったんです。「マイノリティーの神様」「人民ダンス」「エゴサーチ・アンド・デストロイ」「アートvsデザイン」の4曲ですね。

ーーゴンドウさんが参加しているMETAFIVEもニューウェイブとファンクの要素を持っているバンドだし、さきほど志磨さんが言っていた時代の潮流とも合致してますよね。

志磨:そうですね。それはミュージシャンだけではなくて、CDを聴いてくれてる人もそうだと思うんです。ぼんやりとした不安というか、「この先、僕らは知らないところに進んでいくじゃないか」という雰囲気はみんな感じていると思うので。たとえば「CDがない世界」とか。景気が良くなることもないだろうし、「僕らはどうなってしまうんだろう?」っていうのがどうしてもテーマになってしまいますよね。何となく「このアルバムは他人事ではないな」と思ってもらえてるのは、そういうところが理由なのかなって。

ーー時代を映すのもポップミュージックの大事な機能である、と。

志磨:はい。ラブソングは書けないですからね、いまの僕には。そんなことより「人類はどんな時代に向かうのか?」ということを考えるほうがおもしろいし、興味があるんです。20世紀と同じテーマの歌なんて書いてられないというか、時代の大転換期なんだから、それを歌わないのはもったいないでしょ。それもね、「自分が貢献した部分がない」ってことなんです。アルバムのテーマはこの時代が用意してくれていたし、たまたま僕がそれを音楽にしただけで。2016年、2017年の潮流が9割以上を作ってくれてますね、このアルバムは。

ーー時代の流れを掴んで、ピックアップできるかどうかが、アーティストの才能を決定づけるという言い方もできるのでは?

志磨:そこだけですね。調子に乗って自分のことをアーティストって言っちゃいますけど、僕らアーティストが努力するべきなのは、ピックアップする力だけなので。あとはノンビリと待ってればいいんですけど(笑)、いまはいろんなところで信号がビュンビュン飛んでますから。作品作りには事欠かないし、気は抜けないですね。

ーー歌詞の在り方も当然、変化してますよね。

志磨:歌詞って、どうしてもヒストリーとかドラマみたいなところに行ってしまいますからね。たとえば「メンバーが脱退し、ひとりになった志磨が問う、私小説的アルバム」とか。いまの言葉に音楽用語はひとつも入ってないですけど、何となく成立しちゃうじゃないですか。それは僕のバイオグラフィーであり、僕の文学なんですけど、「実は僕、ミュージシャンなんです」っていう。

ーー我々も作品の背景だったり、そこにある構造や物語に焦点を当てがちですからね。ともすれば、音楽そのものを置いていってしまうというか。

志磨:僕も私小説的なものが好きだし、悩みを文学にするのも好きですけどね。言葉の表現、ストーリーテラー的なこともやりたいんだけど、今回のアルバムのいちばんの達成はビートであり、アレンジであり、ミックスなんです。音楽作品としての強靭さが、このアルバムのすごさなので。だからこそ(歌詞のなかに)どれだけでも思想を乗っけられるんですよ。どれだけ情報を詰め込んでも、下半身がしっかりしてるから、頭デッカチにならないっていう。下半身がしっかりしてるのはミュージシャンのおかげだし、ホントに僕はちょっとしか貢献してないです。

ーーアルバムに込められた思想もいまの時代の写し鏡だとすれば、このなかに志磨さん自身は存在していないのかも。

志磨:そう! だからこういうジャケットのデザインになってるんですよ。これを見れば一発でわかりますからね、僕がやろうとしたことが。デザインしてくれたのはEnlighmentというチームなので、やっぱり僕は何もやってないです(笑)。

ーーシンクロニシティの洪水のようなアルバムですね、ホントに。

志磨:こういうアルバムはたぶん、3〜4年に1回しか作れないと思うんです。たまにあるんですよね。すべてが上手くいって、「自分は何もしてないけど、とてつもない作品が出来た」ということが。『平凡』はまさにそういうアルバムだし、作ってるときの多幸感がすごかったんですよ。制作中はずっと「ああ、今日もありがとうございます」って思ってましたから。ちょっとヤバいヤツでしたけど(笑)、このアルバムが作れたことはホントに良かったと思いますね。

(取材・文=森朋之)

ドレスコーズ CONCEPT ALBUM『平凡』制作記録映像

■リリース情報
ドレスコーズ
5thアルバム『平凡』
発売:3月1日(水)
初回限定盤 Type A【CD+DVD】¥6,800(+税)
※DVD:「12月24日のドレスコーズ」LIVE映像収録

通常盤 Type B【CD+DVD】¥3,500(+税)
※初回プレス分のみ『the dresscodes 2017 “meme” TOURポスター引換チケット』封入

<CD収録曲>
1. common式
2. 平凡アンチ
3. マイノリティーの神様
4. 人民ダンス
5. towaie
6. ストレンジャー
7. エゴサーチ&デストロイ
8. 規律/訓練
9. 静物
10. 20世紀(さよならフリーダム)
11. アートvsデザイン
12. 人間ビデオ

<通常盤 Type A DVD収録内容>
1. Opening(Silent Night)~序曲(冬の朝)
2. 恋するロデオ
3. Lily
4. 新 Trash
5. ダンデライオン
6. あん・はっぴいえんど
7. 贅沢とユーモア
8. みなさん、さようなら
9. 弦楽四重奏曲第9番ホ長調「東京」
10. common式
11. エゴサーチ&デストロイ
12. Sleigh Ride
13. Jingle Bells
14. 愛のテーマ
15. クリスマス・グリーティング

<初回限定盤 Type B DVD収録内容>
「エゴサーチ&デストロイ」 MUSIC VIDEO
「人間ビデオ」MUSIC VIDEO

iTunes Store
レコチョク
mora

■ツアー情報
『the dresscodes 2017 “meme” TOUR』

3月17日(金)新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
開場18:30/開演19:00

3月18日(土)宮城SENDAI CLUB JUNK BOX
開場17:30/開演18:00

3月20日(月祝)札幌PENNY LANE24
開場17:30/開演18:00

3月25日(土)広島Cave Be
開場17:30/開演18:00

3月26日(日)福岡BEAT STATION
開場17:30/開演18:00

4月1日(土)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
開場17:15/開演18:00

4月2日(日)大阪BIG CAT
開場17:15/開演18:00

4月9日(日)新木場studio COAST
開場16:15/開演17:00

チケット料金:前売り¥3,800/当日¥4,300(共にドリンク代別)
*新木場studio COASTのみ2階指定 前売り¥4,500/当日¥5,000

※小学生以上はチケット必要。
※小学生未満は保護者同伴に限り入場可。

ドレスコーズ公式サイト

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