“ヒット曲”が久しぶりにテレビに帰ってきた レジーが年末音楽特番から考察

帰ってきた“ヒット曲”

クリエイティブな瞬間を生み出す源泉としてのコラボレーション

 2016年においても年末に限らず様々な音楽番組においてたくさんのコラボが行われた。愚にもつかない企画も多い一方で、鮮烈な印象を残したものもたくさんある。そういったコラボを振り返ると、2016年の音楽シーンの動向がうっすらと見えてくる。

 前述の『クリスマスの約束』で宇多田ヒカルが小田和正とともに歌った「Automatic」は、日本のポップミュージックにおける異なる文脈が重なり合う貴重な瞬間だった。彼女は自身のアルバム『Fantôme』でKOHHなどの尖ったミュージシャンをフィーチャーしているが、ポップフィールドの最前線に戻ってくるうえでは小田のような大衆と向き合ってきた歌手との接触も必要なプロセスだったのではないかと思える。

 『Fantôme』にも参加していた椎名林檎は、『紅白歌合戦』での自身のステージにおいて東京事変を「復活」させるという想像の斜め上を行くコラボを見せた。ここでパフォーマンスされた「青春の瞬き」は『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の通常放送のラスト(2016年12月19日)でも披露された楽曲で、SMAPの口から<時よ止まれ 何ひとつ変わってはならないのさ>と歌われるシチュエーションの重さは、一言では言い表せないものだった。また、その『SMAP×SMAP』ではSMAPがウルフルズやTHE YELLOW MONKEYといった一度は活動休止や解散を経験しているアーティストと共演するなど(特にTHE YELLOW MONKEYとの共演では再びバンドを始めることについての想いを歌った「ALRIGHT」が選曲された)、グループの解散に対する何かしらの意思表示と思わずにはいられないコラボが多数行われた。

 『SMAP×SMAP』に関する話題は年末が近づくにつれて解散絡み一辺倒となってしまったが、2016年3月にはSMAPとceroの共演という非常に興味深いコラボもあった。(参考:http://realsound.jp/2016/03/post-6875.html)国民的スターのフックアップによってceroのアルバム『Obscure Ride』はリリースから1年近く経ってiTunesのチャートで1位を獲得。地上波テレビの影響力の大きさを実感するとともに、今の日本で最もクールなバンドのひとつでもあるceroの音楽性ともナチュラルに共振するSMAPのセンスの良さ、懐の深さを再確認することができた。

 『FNS歌謡祭』関連では、夏に行われた『2016 FNSうたの夏まつり』における48・46それぞれのグループのメンバーによる「サイレントマジョリティー」が強烈だった。最も後輩格である欅坂46の楽曲がファン投票で選ばれ、センターを乃木坂46の生駒里奈が堂々と務め上げるとともに、その周囲ではそれぞれのメンバーが最大限のパフォーマンスで火花を散らす。各グループ、各個人の内包する物語が一気に交錯して爆発したかのようなこの日のステージは、2016年のアイドルシーンにおけるハイライトのひとつとなった。また、年末の『FNS歌謡祭』の第1夜では華原朋美とともに登場した西島隆弘(AAA)がその歌唱力で大きな話題を呼び、第2夜では歌いながら踊る三浦大知とギターを弾きまくるMIYAVIのステージ上での対峙がテレビ番組とは思えない迫力を放っていた。ジャニーズとLDH以外の場所で活動する男性パフォーマーが徐々に注目を集め始めている昨今、西島隆弘と三浦大知はそういった評判に恥じない実力をはっきりと証明した。

 こうして見ていくと、優れたコラボ企画というのは「そのコラボの意味が時代の大きな流れの中で見えてくるもの」と言い換えられるのかもしれない。単純に「うまかった」「かっこよかった」という以上の意味を持つコラボこそ、見ている人にとってその場限りではないインパクトを残す。

 こういった音楽番組でのコラボは滅多なことがない限りパッケージ化されることはないし、ネット上に動画がアップされたとしても削除されることも多く、結果としてなかなかシーンの「正史」には残りづらい。しかし、2010年代のテレビでのコラボ企画はクリエイティブな瞬間を生み出す源泉のひとつとなっており、そういった取り組みがシーンに奥行きを与えているのもまた事実である。2017年も、見るものをはっとさせ、かつそのアーティストの持っている文脈をくっきりと浮かび上がらせるような魅力的なコラボ企画を期待したい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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