レジーのJ-POP鳥瞰図 第16回
“ヒット曲”が久しぶりにテレビに帰ってきた レジーが年末音楽特番から考察
「ヒット曲」が年末のテレビに帰ってきた
「オリコンのシングル年間チャートをみんなで揶揄する」というのがここ数年の年末におけるインターネット上の恒例行事となっている。「握手券のランキング」「どの曲も聴いたことがない」というもはや聞き飽きた感のあるツッコミが大量に投下され、「こんなチャートは意味がない」という結論でまとめられることが多い。「正確な順位を知りたい」などと言うネット民は、CD売上以外の指標も反映されている総合チャート「Billboard Japan Hot 100」には目もくれずにひたすらオリコンをバッシングする。
「オリコンの年間ランキングはあてにならない」という類の論は、そこから「今の時代はヒット曲というものが存在しない」というような話に展開していくことが多い。確かにそう言わざるを得ない年がここ最近あったのは事実であるが、こと2016年に関してはだいぶ状況が違う。「その年を代表するヒットソング」とでも言うべきものが多数生まれたのが、2016年の音楽シーンの特徴だった。
映画『君の名は。』のヒットとともに日本中に知れ渡ったRADWIMPS「前前前世」、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)およびそのエンディングで披露されるダンスによってちょっとした社会現象を巻き起こした星野源「恋」、お笑い芸人が音楽の領域でもヒットを飛ばしたRADIO FISH「PERFECT HUMAN」とピコ太郎「PPAP」、大復活を遂げた宇多田ヒカル「花束を君に」、CMソングとしてかなり多くの人の耳に届いた浦島太郎(桐谷健太)「海の声」とAI「みんながみんな英雄」、デビュー曲ながら話題をさらった欅坂46「サイレントマジョリティー」。どれも「CDは売れているけどほとんどの人は知らない」というような評価が当てはまりづらい楽曲である(配信リリースのみの楽曲も一部含まれている)。バンドにソロにアイドル、お笑いにCMの企画もの、デビュー作に復活作と、いろいろなタイプの楽曲が広く支持されていることからも2016年はメジャーシーンの音楽シーンが元気だったような印象を受ける。
2016年の年末、これらの楽曲の多くがテレビでたくさん流れることとなった。星野源は本当にいろいろな番組で目にしたし、「恋」演奏時の観客の反応でこの楽曲とダンスが幅広い層に浸透していることがよくわかった。「PPAP」は番組ごとにあらゆるアレンジが施されており、そんな演出に対して時には自らの他の曲(ネタ?)も交えながら最終的には面白く仕上げてくるピコ太郎からは人知れず積み重ねてきたキャリアの重みを感じた。そして、ここで挙げた楽曲すべてが大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)で披露された。
『紅白歌合戦』の視聴率は、全盛期よりは低いとは言えいまだ40%を誇る。インターネットだけでは到底リーチし得ない数字である。音楽が世間の共通の話題とならなくなって久しいが、それでも年の最後には多くの人が音楽を聴くためにNHKにチャンネルを合わせる。その背景には、「みんなで音楽の周りに集まって1年を締めくくりたい」というような欲求が存在しているのではないか。そして、そんな欲求に正面から応えられる楽曲が2016年に多数生まれ、様々なタイミングも相まって(おそらくこの連載で以前指摘した「テレビを毛嫌いせずに活用しよう」というシーンの風潮も影響していると思われる/参考:http://realsound.jp/2016/01/post-5816.html)、いずれの楽曲も『紅白歌合戦』で聴くことができた。J-POPファンとしては非常に楽しい年越しであった(2016年の紅白の演出に関する是非についてはまた別の話ではあるが)。
ちなみに、“「みんなで音楽の周りに集まりたい」というような欲求”は、2011年の東日本大震災以降の社会において強く顕在化した印象がある。そしてそういった人々の気持ちを正面から受け止めてその音楽で日本中を勇気づけたのが、他ならぬSMAPという存在だった。人々の共通の話題となり得る新しいヒット曲が多数生まれた2016年に、SMAPはその輪に入ることなくひっそりとその活動に幕を下ろした。この結末についてはいろいろ気になることもあるが、今はただひたすらに悲しいとしか言いようがない。