OGRE YOU ASSHOLEに訊く、“説明しすぎない音楽”の作り方「普通あるべきものを入れず、どうグルーヴさせるか」

オウガに訊く“説明しすぎない音楽”の作り方

 OGRE YOU ASSHOLEが11月9日、7thアルバム『ハンドルを放す前に』をリリースした。同作は『ペーパークラフト』より2年ぶりとなるアルバム作品で、1stアルバムぶりとなるセルフプロデュースを手がけ、過去最長の制作時間を経て作り上げたもの。彼らの持つ音楽性をより深化させつつも、出戸のボーカルがはっきりと聴こえる“深みのあるポップさ”を含んだ作品に仕上がっている。リアルサウンドでは同作について、出戸学(Vo./Gt.)と馬渕啓(Gt.)へロングインタビューを行い、セルフプロデュースへと方針を変えたきっかけや、エンジニアである中村宗一郎(PEACE MUSIC)がもたらした化学反応などについて、じっくりと語ってもらった。聞き手は音楽評論家の小野島大氏。(編集部)

「コンセプトがあった方がやりやすかったんだなと」(出戸)

ーー新作『ハンドルを放す前に』が出たばかりなんですが、今回はかなりの自信作なんじゃないでしょうか。

出戸学(以下、出戸):自信作……というか、セルフ・プロデュースが半ば初めてみたいなもんで。

ーーファースト・アルバム『OGRE YOU ASSHOLE』(2005年)以来ですね。

出戸:ファースト・アルバムもセルフはセルフなんですけど、スタジオを決められてて、行ったら小室哲哉さんが使っていたポップスを作るようなスタジオで、ポップスを録るようなエンジニアの人が録ったのが『OGRE YOU ASSHOLE』なんです。セルフとは言っても、音のことは何も言ってない。録音のことも一切わからずにやって、それでうまくいかなかったので、プロデューサーを立てることになったんです。それ以来のセルフ・プロデュースなんですけど、自覚的なプロデュースという意味では今回が初めてなんですね。

ーーずっと石原洋さんがプロデュースしてきて、今回セルフになって。エンジニアは中村宗一郎さんのまま変わっていませんが、何か心機一転という気持ちがあったんでしょうか。

出戸:うーん、前回までの『homely』『100年後』『ペーパークラフト』を自分たちで3部作と言ってきたんですけど、それを作り終えて、また何か新しいことをやろうかなと思ったんです。曲を作り始めた時はプロデュースについてはあまり意識してなかったんですけど、作っていくうちに、そろそろ自分たちでやった方がいいんじゃないかと考えるようになった、という感じですね。

ーー石原さんとのコラボレーションはどんな感じだったんですか。曲作りからがっつり組む感じだったのか、レコーディング時のアドバイスが主だったのか。

出戸:曲作りの時はこの2人(出戸と馬渕)で作ってきて、歌詞は僕が作って。それをスタジオに持っていってアレンジの段階で意見を交わす感じですね。すごく具体的に、ここはスネアを抜こうとか、ちょっとリズムを変えるとか、音色選びは中村さんとやったり。石原さんとはアルバムの中の何曲かの構造を考えたり、全体のコンセプトについて話し合ったりしていた感じですね。

馬渕啓(以下、馬淵):そうだね。

出戸:作曲の部分では関わってなくて、その次の段階の、録音するときのアレンジの部分で関わってもらっていました。

ーー石原さんから吸収できるところは吸収できたという手応えがあった。

出戸:うん、勉強になったことはすごくありますね。

ーー中村さんとは継続しての作業になりますが、それだけ信頼が深いということでしょうか。

出戸:そうですね。共通言語がすごく多いので。長くやってるんで、ちょっとしたニュアンスが伝わりやすい。ほかのエンジニアの人とやったことがない、というのもありますけど。

ーー中村さんのエンジニアリングのやり方はどういう特徴があるんでしょうか。

出戸:決定項を後にもっていかないことですね。今ってパソコン上で後から音をいろいろなところまでいじれるじゃないですか。そういうことをしない。元々今回はアナログの機材の良さを生かすために、その場で音を決めることを大切にして録りたいというのがあったので。それを忠実にやった結果、すごく時間がかかったんですけど。中村さんのスタジオにあるアナログ機材の音を片っ端から試して。

ーーレコーディングもアナログなんですか?

出戸:いや、今回はPro Toolsなんですけど、Pro Toolsの中のエフェクトはほぼ使わない。

ーー完全にレコーダーとして使っている。

出戸:そうです。使い始めたのは今回が初めてだったんですけど。それまではTASCAMのデジタル・レコーダーでした。

ーー何か変わりました?

馬渕:戻れるので。追い込んじゃう部分がやっぱり、いい意味でもあったんですけど……。

ーーああ、やりだすとキリがない。

馬渕:そう。そういうところは、今までよりありました。

出戸:今まではTASCAMで録って、最後のミックスはアナログ卓上でやってたんですよ。なので、一度フェーダーを下げたら戻れないという作業だったんです。

ーーアナログ卓にマーキングして、その位置までフェーダーを戻しても微妙に音が変わってしまう。でもPro Toolsだとトータルリコールができるから、再現性が高くなる。

出戸:はい。それがあったのが今回一番大きかったですね。なので、ここをちょっと上げてほしいとか、そういう微調整みたいなものがしやすくなる。家に持って帰って聴いて確認して、また元に戻して、みたいなことが簡単にできる。

馬渕:EQとかも含めてね。

出戸:今まではそれができなかったんで。

ーーOGRE YOU ASSHOLEって、デリケートな差異にこだわって、そういう緻密な作業を繰り返して音を作ってきたというイメージもありますが、そうでもなかったということですか。

出戸:アナログで出来る限りやろうという思いはありました。ミックスに関しては、細かくいじってもそう変わらないだろうという観点もありましたが。わかるかわからないか、ぐらいのことはやめよう、と。アナログ卓は、一筆書きの良さみたいなものはあるんです。今回一番時間をかけたのは、最初に選ぶ音の質感みたいな部分です。

ーードラムの音決めから始まって……。

出戸:ドラムを変えてみたりハイハットを変えてみたり、一個一個音を確認して。なのですごく時間がかかりました。最初の提案は中村さんがしてくれるんです。これどうですか、と。イメージと違ったらすぐに次の提案をしてくれる。僕らは具体的に個々の機材の音まで把握してないので、イメージだけ伝えて、それに応じて機材を変えていって。

ーー今回はセルフだから、最初にイメージを伝えて、提案を受けてそれを最終的にジャッジするのも全部自分たちで決めた。

出戸:そうですね。

ーー初めてそういう作業をやってみていかがでした?

出戸:いやあ……アルバムの方向性が決まるまでは結構血迷った部分もあったよね。

馬渕:うん(笑)。

出戸:「あれ、こんなはずじゃなかった」って。スタジオでやってるとわかんなくなって家に帰って確認すると、思ってたものと全然違ってたり。

ーーそれは聴取環境が違うから違って聴こえた、ということではなく、頭を冷やして冷静になって気づく、という。

出戸:そうですね。変に意気込んじゃってゴージャスになりすぎた曲とかあって。これは俺たちがやりたいものじゃないな、と気づいて。

馬渕:ミックスまで行った曲をもう一回ベーシックから録り直したり、というのもありました。

ーー資料には「過去最長の制作期間」とありますけど、そういうことが積み重なって。

出戸:大変でした。でも一個意思が決まったら、そこからは比較的スムーズだったんですけど、最初にやった「寝つけない」って曲はすごく難航して。

馬渕:「寝つけない」のミックスが決まって見えた部分はあったね。

出戸:それが基準になったんで。

ーーそこでアルバムの方向性が定まったと。そもそもアルバム制作スタートの前はどんなことを考えてたんですか。

出戸:一番最初はコンセプトを決めずに、お互い好きな曲を何も縛られずに出していこう、というところかから始まりました。

ーー前の3作は3部作ということで、がっちりコンセプトを決めて作り込んでいった。

出戸:そうですね。

ーーその反動で、好きにやってみた。

出戸:好きにやってみたらどうなるかな、と。結果的には、僕はコンセプトがあった方がやりやすかったんだな、と思いましたね。コンセプトがある方がいろいろな発想が湧きやすい。

ーー「まったく何の制約もなく好きにやっていい」となると、何をやったらいいのかわからなくて、かえって困る、という音楽家は多いですね。

出戸:あ、それに近い感じでした。なんでもやれるんだったら、何をやればいいんだろうって、思考の時間が長くなっちゃって。手がつかない。3部作作り終わって次に何をやればいいのか。でも馬渕はすぐ2~3曲作ってきて。

馬渕:いろんな曲の(原型の)ストックが一杯あるので、そこからを試してみる感じですかね。ダメでもやってみてみんなに聞かせて。

ーー曲が集まってきて、どんな感じだったんですか。

出戸:当初は(ビートルズの)『ホワイト・アルバム』的に、一曲一曲がバラエティに富んだものができるんじゃないかなと思ったんです。制約がないから。でも僕と馬渕の作った曲をあわせてみたら、そこまで離れてない。共通した質感みたいなものがあって。それは想定外でしたね。コンセプト・アルバムではないんだけど、2人の間で共有してるムードみたいなものがあって、そこに曲が集まってきたような感じがあって。

ーー知らず知らずのうちに統一感が出てきた。あいつがこういう曲を作るならこういう曲を、というリアクションは当然ありますよね。

出戸:それはあります。

馬渕:なので(アルバム制作の)後半にいくほどやりやすい。アルバムに足りないものはこれだ、とわかってくる。

出戸:3枚続けてコンセプト・アルバムを作ったこともあって、曲を作ってるとアルバムのことを考えちゃうんですよね、結局。アルバムを無視して曲を作れない。

ーー曲単体の面白さというより、アルバム全体のバランスを考えてしまう。

出戸:後半になればなるほど、それがわかってきちゃって。このアルバムってこういうことなんだなって。それに合わせようとする。歌詞もそうなんですけど、最初は手探りで好きな質感のものを揃えていくんですけど、制作が半分を過ぎると、まとめあげようとする感じがバンド内でも出てきて(笑)。

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