7thアルバム『ハンドルを放す前に』インタビュー
OGRE YOU ASSHOLEに訊く、“説明しすぎない音楽”の作り方「普通あるべきものを入れず、どうグルーヴさせるか」
「ロボットが血の通ってるようなことをやりたがるみたいな感じ」(馬淵)
ーーなるほど。前作は「ミニマル・メロウ」という言葉がキーワードとして出てましたが、今回はその「メロウ」な部分が強く出てきた印象があります。これはやはり知らず知らずのうちにそういう方向に寄っていったということでしょうか。
出戸:曲を作ってる時は、メロウというよりは、質素で地味な感じの暗いアルバムになるかなって思ってたんです。でも中村さんのところでレコーディングを始めたら、ポップなものになっていったのは想定外でしたね。
ーー「質素で地味」というのは、音数が少ないということですか。
出戸:音数が少なくて、テンポもミドル・テンポからスローが多くて。デモの音色もあるんですけど、音の質感も暗めで録ってたんで。全体的にどよーんとした感じのだいぶ暗いデモになってたんです。
馬渕:音質的にもハイ(高域)の要素がなく、同じようなところ(帯域)に全部のトーンがいてどよーんとして(笑)。
ーーそれじゃいかん、という判断があったんですか。
出戸:いや、僕らはそれでいいと思ってたんですけど(笑)。そこで中村さんという外部の刺激があって。(デモを聴いて)「これはダメでしょ」って言われて。
ーーあ、ダメとまで言われましたか。
出戸:少しでも明るい要素入れないとつまんないでしょ、って感じだったよね?
馬渕:でもこれでいいんです、という気持ちもあったので。
出戸:せめぎ合いでしたね、最初は。
ーーそのダメ出しは、聴く人のことを考えたらこれじゃ厳しいよ、ということですか。
馬渕:そうかもしれないけど、中村さんの趣味もあると思います(笑)。
出戸:「寝つけない」の最初のミックスが、たぶんわざとだと思うんですけど、すごい派手なミックスになってたんですよね。
ーー一番最初にやって難航した曲ですね。
出戸:それを聴いてダメだなと思ったんですけど、一番最初にすごく遠くまで石を投げられたせいで「中間」ができて。もう一度ミックスをやり直したんですけど、結果最初よりはだいぶ明るいものになっていて。ボツにしたミックスがあったおかげで、だいぶ引き上げられた感がありましたね。
ーーなるほど。交渉の基本ですね。最初極端なことを提案して、最終的には意図したところに落とす、と。
馬渕:中村さんがよくやる手法なんですよ(笑)。
ーー確かに出来上がったものを聴くと、音数も少ないし派手な音色やアレンジが聴けるわけでもないけど、かといってただ地味で暗いものには聴こえない。すごく絶妙なさじ加減ですね。
出戸:それはたぶん、最初のせめぎあいのおかげだと思いますね。
ーー音楽的にはシティ・ポップス/AOR的なソフト&メロウの雰囲気はありつつも、オウガらしいピリピリした緊張感があって、不穏な感じもありつつ、聴くうちに心がざわざわと落ち着かなくなる、というバランスが面白いと思いました。
出戸:ただいい曲、みたいな感じではないですもんね。ある程度メロディアスな部分はあるかもしれませんが。
ーー同じ曲をほかのアーティストがやったら、もっと王道なポップスになりそうな気がしますが、そうならないのがオウガらしい。
出戸:それはきっとバックトラック(音)だよね。
馬渕:冷めた感じというか。たとえばソウルっぽい曲があったとしても、普通のソウルにしないで、ロボットが血の通ってるようなことをやりたがるみたいな、そういう感じ。ちょっと質感を変えてみて、カテゴライズされないイメージを出す。この曲はアレね、って簡単には言えないようなもの。自分たちでも「この曲はなんだろう」と思うようなものを作りたい、というのは意識してました。
出戸:今回サウンドの質感はこだわって作りました。で、歌が前にあって、メロウな部分がそこにあると思うんですけど、その対比みたいなものが、ちょっと不穏な感じで。
ーー確かに冷めた感じがありますね。サウンドの質感も、演奏も。
馬渕:そうですね。人がいないっていうか。バンドがやってるものじゃないっていうか。いわゆるバンド・サウンドじゃないじゃないですか。ギターがいてガンガン弾いて、とか。
ーーバンドっていうと、お互いが熱く呼応して盛り上がる、というイメージもありますが、オウガはそういうのではないですね。
馬渕:そういうのは意図的に排除して作りました。
ーーバンド結成して最初からそうだったわけじゃないですよね。
馬渕:あ、そんなことはないです。昔はもっとライブ寄りというか、もっと肉体的な感じでした。
ーーそれがどこで変わってきたんですか。
馬渕:『homely』のちょっと前……『浮かれている人』ぐらいからそうなりましたね。
出戸:でも今回のに比べたら『homely』も『100年後』も『ペーパークラフト』も、かなり肉体があって、バンド・サウンドだなってすごく思います。やっている時はバンド感を排除しているつもりだったんですけど、これを聴いたあとに聞き直すと、まだすごくバンドなんですよね(笑)。
ーーますますマシーン化が進んでいる(笑)。でもライブではちょっと違いますよね。こないだのライブ盤『workshop』も肉体性が強かった。
馬渕:うん、ライブは肉体的で快楽を求める感じでいいんですよね。
ーースタジオとライブは意識して区別している。
出戸:スタジオ・アルバムはそういうのが好きで。なんかこう……過剰に熱いのとか。最近あまり聴きたくなくて。
馬渕:全曲ギター・ソロが来て、わかったわかった、となるみたいな(笑)。
出戸:熱唱してるやつとかもあまり聴かなくて。
ーーなぜそういう表現に惹かれるんですか。
出戸:……なんでなんですかね……。
馬渕:……まあ、そういうものが好き、としか言えないですけど。
ーーレコーディングはバンドで一斉に演奏するんですか。すべてのパートをバラバラに録っていくやり方もありますが。
馬渕:一斉に録って、それをあとから差し替えていきます。
ーーそれなら演奏しているときお互いのプレイを聴きながらやっているわけですよね。そこで気持ちが熱く盛り上がってくるとか、ないんですか。
出戸:うーん……ないですね。
ーーないんだ(笑)。
馬渕:今回は特にそうかもしれないです。
出戸:盛り上がってもそれを表に出さないというか。演奏が合ってくると勝手に盛り上がるんですよね。これはいい感じのが来た! と思う時は演奏中も盛り上がるんですけど、それが外に出なくて、中だけで盛り上がっている、というのはあります。
ーー内心では盛り上がっている。
馬渕:……盛り上がってないですかね(笑)。もうちょっと冷静な感じでやってますかね。
出戸:冷静なんだけど、いいの録れてるぞ、ミスるなよ、みたいな感じの緊張感がある。
馬渕:緊張感はありますね。
出戸:それを抜けた時に「ああ、良かった良かった」みたいな感じではありますね。よく頑張った、みたいな。
ーーそのピリピリした緊張感は聴いている側と同じかもしれないですね。音数が少ないからなおさら、一音たりとも聴き逃せない感じがあって。
出戸:うん。