LILI LIMITが語る、“未知のポップス”を生み出す発想術「本や展示をきっかけに曲を作り始める」

LILI LIMIT、“未知のポップス”を生み出す発想術

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「この1年間、音を波形で考えることが多くなった」(土器)

――(笑)。そして何と言っても目を引くのが、8曲目と11曲目で対になっている「Space L」と「Space R」です。これはどんなアイディアで生まれたものだったんですか?

牧野:今回の収録曲の頭文字を取って並べ替えると、「also known as」になるんですよ。それでアルバムタイトルが「a. k. a」になっているという。でも、それだけだと単語の間のスペースが足りないので、「Space L」と「Space R」を入れることにしました。これはアルバムを作る前からあったアイディアですね。そもそも、その時点でやりたいアートワークがあったんですよ。それは「何枚かのカードを並べ替えたら、文字が変わってひとつの作品が色々な見え方をする」というもので。その時既に12曲が上がっていて、ここにもう1曲加わったら、スペースも含めてちょうど「also known as」になるな、と。僕らの1年間が出ているアルバムなので、「a. k. a(=~として知られる/通称)」という言葉が一番合うと思ったんですよ。

――つまり「今回のアルバム a. k. a 今のLILI LIMIT」ということですね。

牧野:そういう感じですね。

土器:「Space L」は先にできていたんですけど、「Space R」ができたのは「A Short Film」よりも後で、本当に最後の方でした。曲が出揃って、「L」の対になる「R」をどこかに入れたいという漠然としたアイディアが牧野から出てきたんです。

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牧野:もうひとつピースが入ったらアルバムがまとまる感じがして、「インストがほしいな」と思ったんですよ。僕が詞と曲をどっちも書いた曲(「Space L」)がひとつだけあったから、だったら「土器が作ったインストも入れられたらいいな」と思って。僕ら2人はよくLILI LIMITの「右脳(牧野)と左脳(土器)」と言われますけど、自分としてはそれがあまり好きじゃなくて。だから、(牧野が作った曲を「Space L:左」に、土器が作った曲を「Space R:右」にすることで)それを少し揶揄する感じの曲にしてみました。

土器:この曲は自分が遊びながら部屋で曲を作っている様子を俯瞰しているようなイメージの音にしたいと思って。なので、最初の少し音質が悪い部分は部屋にマイクを立てて、「Space L」の音をサンプラーで叩いてぶつ切りにしたり、ビー玉が入っている瓶を鳴らした音を録って使いました。曲の世界観に入り込むのではなくて、曲の外側から聴く印象にしたかったんです。僕はこの1年間、音を波形で考えることが多くなってきて。ボンベイ・バイシクル・クラブが好きなんですけど、あの人たちも、バンドなのにボーカルの方はワールド・ミュージックとか昔のボリウッド音楽をサンプリングして曲を作っていますよね。そういうところから、ヒップホップ的な手法をバンドに入れたいと思ったんです。

牧野:僕は本や展示をきっかけに作り始めることが多いです。音楽から影響を受けるとそのままになってしまうので。たとえば今回の「Space L」だと、『サウンドエデュケーション』(R・マリー・シェーファー著。音に対する感受性と想像力を育てる教育書)という本から影響されて曲を作り始めたんです。小学生とかに「これはどんな音がするでしょう?」ということを文章で書いている本で、その音を実際に聴いてみると全然違う音だったりするという感じのもので。「On The Knees」の場合は、土器が作った音を聴いた時にゴダールの『軽蔑』で女の人が駆け落ちしようとして交通事故で死んじゃう時の映像が浮かんで来て。「だったら浮気の歌を書こうかな」と思いました。ただ、そのままでは面白くないと思ったので、緯度と経度を設定して、その舞台が分かるようにして。

――「35:39:44/ノースラティチュード」「139:43:49/イーストロンジチュード」から始まって徐々に数字が変わっていく部分ですね。これはどの辺りの地域なんですか?

牧野:藤沢から品川のとあるホテルまでの道のりにした気がしますね。他にも「Neighborhood」では、大阪のラジオ局に僕らが本当にお世話になっている人が2人いて、その人たちのことを思い浮かべながら曲を書いたりとか。

――そこにバグルスと徳永英明さんへのオマージュを加えていった、と。

牧野:バグルスの曲は時代に対して歌っているものですけど、僕はそれを恋愛の歌に変換して作っていきました。あと、「Self Portrait」は寝ずにずっと歌詞のことを考えていたら、まったく出てこなくなってしまった時期があって。必死こいて頑張って、外を歩いてみても全然出てこなくなったんですけど、その頃、僕は寝言でまで歌詞のフレーズを言うようになっていたらしいんですよ。それを友達から教えられて「やばいな」と思って。サビの30センチ定規のくだりは、その時の自分の寝言をちょっと変えたものですね。

――その「Self Portrait」には在日ファンクの村上(基)さんがトランペットで参加していて、ストリングスと一緒に曲のクライマックスになる部分を彩っていますね。

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土器:サビの後に来るメインのフレーズを吹いてもらって、音を重ねたいというアイデアだったんです。でも、それだけだともったいないということで、遠くの方で人がアドリブで演奏しているような曲が録れたら面白いかなと思いついて。その場で自由に吹いてもらったものを沢山録らせてもらって、キーボードの志水が「この音の上がり方はおいしい」みたいなものを選んで、波形を切って並べたんです。本当に無茶な仕事を頼んでしまったんですけど……(笑)。

――(笑)。「A Few Incisive Mornings」の歌詞にある〈毎月変わる花瓶の花〉というのは、以前話を聞かせてもらったときに話してくれた、牧野さんの日常生活での実体験ですか?

牧野:そうです。それをきっかけにして福岡時代のことを考えたりしながら歌詞を書きました。よく過去を否定しながら成長していく人がいますけど、僕は「そういう成長の仕方ってどうなんだろう?」って疑問を感じるんですよ。そこから「今の自分の姿を過去の自分が見たら、どう思うだろう?」ということを考えていて、こういう歌詞が出てきたんです。

土器:これはメンバーが音を出す中で変わっていった部分が多い曲ですね。ピアノメインになったのも志水が途中でピアノを弾き出したのがきっかけだし、Aメロのドラムのリズムが変わったのもリズム隊が曲をこなす中で出てきたアイディアで。ちなみに、仮タイトルは「ノルウェー」で、最初はノルウェーの山奥で妻を亡くしたおじいちゃんが細々と生活している、というイメージで作ったものでした。

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