宇多田ヒカル、F・オーシャンらと共演 ラッパーKOHHがいま世界で注目される理由とは

 ラッパー・KOHHの魅力は、何と言ってもカリスマ性溢れるそのアティチュードだ。“適当に生きる”ことを堂々と歌った「JUNJI TAKADA」や、<結局見た目よりも中身>と、フェイクな野郎どもに強烈な釘を刺した「Fuck Swag」など、KOHHの美学は一貫してその研ぎ澄まされたリリックに表れてきた。加えて、アルバム『DIRT』の制作を開始した頃から彼に新たなインスピレーションを与えたのが、ロック・ミュージシャンの存在。当時、筆者が行ったインタビューでは、ザ・ブルーハーツの楽曲をきっかけにして、尾崎豊やカート・コバーンやシド・ヴィシャスといったアーティストの楽曲に触れていったと語ってくれた。ブルーハーツは抜きにして、彼らに共通しているのは若くしてその生涯を終えた点だろう。『DIRT II』に収録された「Die young」では、カート・コバーンほか、バスキアやジミ・ヘンドリックスらの名を引き合いに出して<死んでもいいけど死にやしない 殺せるもんなら今殺せ>と刹那的で挑発的なフレーズを叩きつける(一方で「I Am Not a Rockstar」という、ある種、逆説的な楽曲も)。

KOHH「Die Young」

 さらに、同アルバムに収録された「Born to Die」は<地獄まで財布は持っていけない 天国にも財布を持っていけない We born to die>と、死に対しての潔さも見せ、宇多田ヒカルとの共演作「忘却」で宇多田が歌う<いつか死ぬ時 手ぶらがbest>というリリックとの相似点を見つけることもできる。

 フランク・オーシャンとの共演作「Nikes」に先駆けて、すでにワールドワイドな活動を行ってきたKOHH。『DIRT II』ではアメリカやフランス、韓国、ジャマイカなどの世界各国のアーティストとコラボを果たしているが、それよりも先に彼の名を世界に知らしめたのは、韓国の新鋭MC、キース・エイプが2015年に発表した「it G Ma」の存在だろう。同じ日本からLOOTA、そして韓国のオケイジャンとジェイ・オールデイらが参加した「It G Ma」はネットを中心に瞬く間にヒットを記録し、今やYouTubeでのMV再生回数は約3000万回に届く勢いだ。KOHHのシンプルな言葉選びと、感情的で抑揚の効いたフロウが言語や国の壁を超えてヒップホップ・リスナーに届いたという証拠ではないだろうか。

Keith Ape「It G Ma」(feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh)

 今年に入ってからも、KOHHはUKのグライム・シーンを牽引してきたスケプタが東京で開いたパーティーや、フランスのファッション・ウィーク、そしてNYのSoHoで行われたUNIQLO USAの10周年イベントなど、世界中のリマーカブルな場所へ招かれてきた。日本人のラッパーとして、間違いなく最先端の動きを見せているKOHHの様子を見ていると、宇多田ヒカルやフランク・オーシャンまでもが彼の才能を認めることにも納得がいくような気がする。

 今年の夏、『FUJI ROCK FESTIVAL '16』への出演を果たしたKOHH。今年の12月には地元・北区王子の北とぴあ さくらホールでの凱旋ワンマン・ライブも控えている。今後、いかに“Living Legend”としてさらなる成長を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演 

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