“テレビ×音楽”は新たな国民的ヒットソングを生むか? ceroの『SMAP×SMAP』出演の意義

クラスターを横断する音楽と「国民的ソング」が生まれる場所

 今回の『SMAP×SMAP』とceroのような、異なるクラスターの交流はSMAPの得意技であるのと同時にテレビの得意技であるともいえるし、たとえば『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)においてもその手の取り組みは継続的に行われている。特に最近は以前にも指摘した通り、フェスや音楽誌を主戦場とするようなバンドを積極的に登場させており(http://realsound.jp/2016/01/post-5816.html)、それだけでなく3月11日の放送ではUnderworldが「Born Slippy」を披露した後に、オリエンタルラジオがRADIO FISHとして「PERFECT HUMAN」を歌い踊るというカオスな光景が展開されていた。

 “テレビを介した異文化交流”という観点で考えると、NHKで番組名を変えながらも長年放送されてきた『MUSIC JAPAN』(NHK総合)が3月で放送終了となるというのは残念なことである(4月以降は『シブヤノオト』『NAOMIの部屋』という2つの番組に分割され、月1回ペースで放送される予定とのこと)。『ミュージックステーション』が取り上げないようなアイドルグループやインディー寄りのバンドを毎週多数出演させ、それをPerfumeとユースケ・サンタマリアという様々なカルチャーに対してニュートラルな姿勢を持つMCが仕切る構成は、ジャンルが混じり合う場として理想的だったように思える。

 ただ、“複数のクラスターに膾炙する音楽”というのは必ずしも音楽番組のみから広がるというわけではない。古くは「月9」の主題歌がミリオンヒットを連発したように、その楽曲の魅力を幅広い層に伝達するプラットフォームは音楽番組以外にも存在している。そして2010年代においてそんな場として機能しているものの筆頭が、NHKの連続テレビ小説だろう。いきものがかりの現在の幅広い年代からの人気に「ありがとう」(『ゲゲゲの女房』主題歌)の全国的・全世代的な浸透が寄与しているのは間違いないし、また最近ではAKB48「365日の紙飛行機」(『あさが来た』主題歌)が高齢者にも支持されるなど、グループのこれまでのファンとは異なる層への広がり方を見せている。“国民的ヒットソング”、つまりバラバラの趣味嗜好を持って生活している人であっても必ず知っているような楽曲が生まれなくなったと言われて久しいが、NHKで毎朝流れるポジションに収まったケースにおいては、その定説をひっくり返すチャンスが与えられる。

 4月からの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌は、宇多田ヒカル「花束を君に」。かつて日本で最も多くのCDを売ったアーティストが、今現在の日本で最も伝達力のある場所で復活を果たすことになる。この組み合わせが細分化されたクラスターを再び結びつけるような力を持ち得るのか、そしてそれが音楽シーンにどんな影響を与えるのか注目したい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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