EXILE ATSUSHI+AIがメインストリームで体現する、ブラックミュージック直系の歌唱力

 「No more」を聴いていてありありと思いだしたのは、2011年12月13日に国立代々木競技場第一体育館で見た「MICHAEL JACKSON TRIBUTE LIVE」のことでした。このマイケル・ジャクソン追悼公演には、彼の兄たちによるジャクソンズも出演し、さらにAIがヴォーカルで加わるという趣向もありました。最初はさすがに男声グループに女声が加わるのは大丈夫なのだろうか……と思ったものでしたが、実際のステージでは驚くほど違和感がなく、しかもジャクソンズよりもAIのほうが声量があると感じたほどでした。AIのヴォーカリストとしての力量、そしてブラック・ミュージックへの愛情がなせる業だと感じたものです。

 繊細なピアノや壮大なストリングスの配し方も「No more」の大きなアクセントになっています。アコースティックな音色はこのCD全体の重要なトーンになっており、他に収録されているのは、ATSUSHIとAIによる「Be Brave」、AIによる「VOICE」、ATSUSHIによる「HIKARI」とすべてがアコースティック・ヴァージョン。「VOICE」のアコースティック・ギターは、かすかにフラメンコ風味です。そして、AIのヴォーカルの抜群のタイム感にも感心してしまいました。ヴォーカル・ミュージックとして直球の勝負を貫いているのが「No more」収録曲の魅力でしょう。

 「No more」で聴けるのは、ブラック・ミュージックのまっとうな継承者であるATSUSHIとAIの歌声です。あまりにもメジャーであるがゆえに、逆にその音楽性はほとんど語られることがありません。音楽的には異なれど、まるでゴスペルを聴いているかのような昂揚感と清々しさがあるのが「No more」です。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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