「ガラパゴスも続ければムー大陸になる」論客3人が分析する、2015年の国内音楽シーン

2015年音楽シーン総括対談(後編)

「バンドという概念自体がこれから拡張していく」(柴)

――シーンにおいて、バンドという一個体よりも、スキルフルであったり強烈な個性を持つプレーヤーが尊重されるのは、今年のグラミー賞ノミネート作品にも顕著な気がします。

柴:プレーヤーがどうこうというより、バンドという概念自体がこれから拡張していくのではないでしょうか。サカナクションの山口一郎くんは、自分たちのバンドに加えて、照明やPAの人も加えて、チームという概念を導入した。例えばボーカロイド界でも、カゲロウプロジェクトがそれにあたるもので。じん(自然の敵P)の作る楽曲を補完する存在としてイラストレーターのしづさんがいて、ある種のバンドのように、ストーリーメーカーと動画師がひとつのプロジェクトをユニット的に進めていく。これも広義の意味ではバンドだと思うんです。

ミト:セカオワやfhánaのように、ドラムレスのバンドも増えていて。そういう意味では、僕らは60~90年代の40年間にできたバンド観にとらわれすぎているのかもしれませんね。

金子:言葉っていうのは更新されて行くものだと思います。今年だと“シティポップ”もそうですよね。「今さら何を言ってるんだ」とか「これはシティポップじゃない」みたいな声もありましたけど、あくまで“シティポップ”というラベルを使っているだけで、音楽はこの時代に生まれたものですから。僕が監修させていただいて、お二人にも協力してもらった『ポストロック・ディスク・ガイド』も、ポストロックの歴史を振り返りつつ、誕生から20年経った今だからこそ伝えられることを伝えたかった。最近はSNS上の短い言葉ですぐに論争が巻き起こってしまうけれども、そのワードをなぜ使っているのかという裏側を見てほしい。そういったリテラシーの向上によって、結果として、バンドのあり方もどんどん変わってくるんだと思います。

ミト:めちゃくちゃ異形なポストロックバンドって、最近、日本でも多いですよね。パッと聴くと、LITEやtoeをリスペクトしていることは伝わってくるけど、ボーカルがヴィジュアル系だったりとか。

柴:最近はsora tob sakanaみたいな「ポストロック・アイドルグループ」なんてもの出てきました。

ミト:そういうものを取り入れて活動しようという勇気は、下手なバンドフォーマットでやるよりよほど衝撃的です。要するに、突き抜けちゃっている人は問題ないんですが、その人たちのコピーみたいなのが多いのはあまり好きじゃない。ポストロックにヴィジュアル系やアイドルの要素を入れるほうが万々歳なわけですよ。

――つまり、既存の価値観に異化作用をもたらすものを欲していると。

ミト:そう。その過程で「ガラパゴス」と言われるのは仕方なくて、後々世界的に広がったら勝ちなんです。ガラパゴスも続ければムー大陸になるんですよ(笑)。怖がらずにやり続けた結果として、アニソンやボーカロイドといった文化が徐々に世界へ広がっているわけですから。

金子:ミュージシャンがそれぞれのやり方で頑張っている分、リスナーも自立心をもって音楽を楽しんでほしいと思いますね。個々人が自分なりの楽しみ方を見つけて、使うツールやジャンルを横断し、もっと自由になっていけばいいのかなと。

柴:僕としてはリスナー一人ひとりが音楽リテラシーを高めないといけない、というような論調にはむしろ反対ですね。むしろそれぞれがおもしろいもの、気持ちいいものに流れるのは当然だし、一人ひとりが自分の快楽に従っていいと思う。ただ、それを楽しむ場が硬直すると新しい熱が生まれなくなる。「これがウケる」「これが方程式」みたいなものがだんだん定まってくると、エントロピーがどんどん増えてくるんですよ。局地的にあった熱量がだんだん平均化されていく。だから、メディアの役割は大事だと思う。何が面白いか、何がカオスかをメディアやライターはしっかりキャッチして、わかりやすい言葉でパッケージにすることが役目だし、そういう場を作ることによって、リスナーにも「こう楽しむんだ」って思ってもらえるようにしないといけない。

ミト:金子くんの言っていることを手っ取り早くやるなら、SpotifyやAWA、LINE MUSICなど、それぞれのサービス向けに「これを使うならこういう音楽を」というガイドを出してあげるべきだと思う。ハイレゾもクラシックが好きだったらこっちのサイト、みたいに住み分けができているし。ミュージシャンはわがままで、自分の好きな音楽しか作らないのはあたりまえなので、リスナーに強要する以前に、そもそもリスナーを意識している人だって少ないと思います。ミュージシャンとしては真面目であるけれども、社会的にはだいぶ不真面目であることを自分は意識していて、だから自分たちのファンが可視化されたときには最大限の感謝を伝えるわけで。柴くんの言葉を借りるなら、快楽に寄り添ってもらって結構なんです。だって、こっち側も快楽でやってるんだから(笑)。

(取材・文=中村拓海)

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