KinKi Kidsが追求する、新たな音楽的フィーリングとは? 最新シングルの生楽器サウンドを分析

 プログラミング技術は、音楽性それ自体を変化させる。ダンスミュージックが隆盛した90年代はその移行期であり、エレクトロニカが隆盛した00年前後はその徹底期である。例えば、SMAPの「青いイナズマ」「SHAKE」「ダイナマイト」などは、プログラミングによる楽曲制作の特性を十二分に活かしたがゆえに、あの時代の名曲になりえた。ひるがえって現在、プログラミングによる楽曲作りは、コストもかからないこともあり、かなり一般化している。しかし、だからこそ、以前なら当然のものとしてあった生楽器による演奏は、意志的な選択としてあらわれる。

 KinKi Kidsの新作(通常盤)は、バックミュージシャンの数が多く、ぜいたくな音作りである。リードトラックの「夢を見れば傷つくこともある」はストリングスから始まるが、バックにかすかにエレクトロ音が加えられる。ミディアムテンポの落ち着いた曲だが、サウンドの情報量が多いので退屈しない。続く「こたえ」は、エレキギターとアコースティックギターがよいバランスで絡む、さわやかなロックである。しかし、サビの背後に鳴らされるストリングスに、さわやか一辺倒ではない、ポップスとしての豪華さがある。

 とくに耳を引くのは、後半2曲だ。松井五郎(作詞)、織田哲郎(作曲)、CHOKKAKU(編曲)という往年の豪華メンツが並ぶ「ココロがあったんだ」は、ジャニーズ直系と言ってもいいディスコ曲である。とは言っても、ハウス的な打ち込みのビート感は強くなく、むしろ70年代的なサルソウルやフィリー・ソウルを現代的にシミュレートしている印象を受ける。ポイントはドラムで、この曲は、生ドラムのバタバタした感覚が残されたアレンジになっている。ストリングスも効いていて、ガラージュ的な響きをもつ好曲だ。KinKi Kidsの粘りのあるヴォーカルとの相性も良い。一方、堂島孝平による「Alright!」は、基本的にはさわやかなポップスなのだが、堂島らしいと言うべきか、とてもソウルフルである。モータウンとまでは言わないが、ホーンも印象的に入っているし、背後ではシェイカーがリズム・キープしている。ピアノとオルガンの音色も聞こえ、シンプルな曲調とは裏腹に、とても音の数が多い、楽しい曲だ。

 本作はこのように、意志的に生楽器を選択し、打ち込みでは出せないフィーリングを追求している。ハードなダンスミュージックが一般化しているなか、それらに負けない音の厚みを持たせたバンドサウンドは、意外と新鮮味がある。KinKi Kidsのこれまでの音楽性もかなり多彩だと思うが、ヴォーカルとの関係で考えたとき、ダンスミュージックよりはポップスを歌いあげるほうが魅力的だという印象がある。では、そのとき歌われる音楽とはいったいどのようなものなのか。ダンスミュージックではないとは言え、リズムへの配慮がない音楽は、もはやポップスとしても退屈である。ソウルフルな「Alright!」は、その意味で好曲だった。秋元康が作詞した「夢を見れば傷つくこともある」は、AKB48のドキュメンタリーのセルフパロディ(「少女たちは傷つきながら夢を見る」)なのか知らないが、アイドルを一般的な成長物語に矮小化している印象があって感心しない。アイドルの成長は、表現とともに見られるべきだ。Kinki Kidsの音楽性がどのような成長を遂げるのか。そこにこそ注目したい。

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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