コラボレーションアルバム『212』インタビュー
nameless×とあ、コラボの意義と制作秘話を語り合う「お互いの魅力を引き出せると思った」
楽曲の世界観によって歌い方や声の表情を変え、豊かな表現力で多くのリスナーを魅了してきた女性ボーカリスト“nameless”と、抜群のポップセンスと鋭く胸に刺さる作詞センスで多くの人気曲を生み出してきたボカロクリエイター“とあ”。ニコニコ動画を中心としたネットの音楽シーンで今もっとも旬なアーティストとも言えるふたりがタッグを組んだオリジナルアルバム『212』が11月25日、リリースされた。相性抜群のコラボレーションが実現した経緯から、書き下ろし楽曲の制作秘話、レコーディングのエピソードまで。ふたりにじっくりと語ってもらった。
「最初に楽曲を聴いた時から、「わかる!」という強い共感があった」(nameless)
ーーまずはふたりの出会いから聞いていきたいと思います。特にニコ動の音楽リスナーにはうれしいコラボレーションですが、初めてお互いを認識したのは?
nameless:私はとあさんの「ツギハギスタッカート」(2014年6月)を聴いたことですね。聴いた瞬間に「歌いたい!」と思って、すぐに動画をアップしたんです。
とあ:僕もその動画がきっかけですね。聴いた瞬間に“すげー!”と思って。その後も、今回のアルバムにも収録している「ミュージックミュージック」(2014年8月)など他の曲を歌ってくれて、うれしいなと思っていました。
ーー初期の段階で、お互いにどんな印象を持ったのでしょうか。とあさんは抜群のポップセンスがあり、かつ切なく胸に突き刺さるような歌詞が持ち味だと思います。リズム的にも歌いこなすのは難しい楽曲が多いと思いますが、namelessさんはどう感じましたか?
nameless:最初に楽曲を聴いた時から、自分の性格にピッタリ合ったというか、「わかる!」という強い共感があったんです。だから、すごく気持ちよく歌わせていただいて、“難しい”というより“楽しい”という感じでした。
ーーとあさんは今でも“女性疑惑”があるくらい、女性の心情を鋭く描いていますよね。
nameless:私も最初は女性だと思っていたんですよ(笑)。引き出しも豊富で、新曲が上がるのをずっと楽しみにしていました。
ーー一方で、namelessさんは「名無し」と名乗っている通り、曲によってまったく違う表情を見せる歌い手としてリスナーを魅了しています。とあさんは、どんなところに魅力を感じたのでしょうか?
とあ:先ほど「歌いこなすのは難しい」と言っていただいたんですけど、僕の曲は人間が歌うことを前提に作っていない曲が多いんですよ。口ずさみながら作るのではなく、むしろ楽器を使ってメロディを作るようなイメージで。「歌いづらいだろうに、みんなよく歌ってくれるなあ」と思っていて。namelessさんもキーも変えずに、めちゃくちゃ歌いこなしていて。
ーーしかも、曲に合わせてスタイルがガラッと変わる。
とあ:本当にそうですね。歌いまわしを変えながら歌う方は多いけど、namelessさんの場合は声色から変えてしまう。「自分を出すというより、歌詞の世界観に入り込んで、その曲の主人公になりきる」ということを聞いて、そうやって自分の曲を歌ってくれたことがうれしかったですね。
ーーリスナーの間でも相性抜群のコラボだと評判ですが、あらためて、今回のリリースに至った経緯は?
とあ:初めは別々に声をかけてもらっていたんですけど、プロデューサーさんのひらめきで「一緒にやってみたらどうか」と。最初はnamelessさんの方に話が行ったんだよね?
nameless:そうですね。お話をもらった時すごくワクワクしました。これまでとあさんが投稿されてきた中にもいろんな曲調の作品があるし、いろんな楽しみ方ができるんじゃないかなって。
とあ:歌い手さんのCDって、複数のクリエイターの楽曲でアルバムを作るのが一般的だと思っていたので、自分としては “全部オレの曲でいいんすか?”という感じで(笑)。ただ、これまで歌ってもらった曲がことごとくバッチリ合っていたし、単純に面白そうだなと思いました。
ーーこれまで歌ってネットにアップしてきた曲も、全て新規でレコーディングしていますね。
nameless:とあさんにディレクションをしていただいて、とても勉強になりましたね。曲を作った方の考えを聞けて、その方向に気持ちをあわせていくのがすごく楽しかったです。歌入れの時にとあさんと「この曲の主人公は何歳くらいで、どんな性格で……」って、物語の背景について話し合うことができて。
とあ:例えば「ツギハギ」だったら、ネットに上げてくれたのは、僕がまったく関与せずに、namelessさんが思ったように歌ってもらったもので。それはそれでバッチリだったんですけど、もう少しだけ細かく、「この部分は、もう少しこういう感情で」とか、「この言葉はもう少し短く切って」という様なことを話しました。この曲がレコーディングの一発目だったということもあって少し時間がかかりましたが、いろいろと確認作業ができて、その後はとてもスムーズでしたね。