アルバム『First Piano』&『Anison Piano』同時リリースインタビュー
まらしぃが明かす、クリエイターとしての信条「ニコ動に初投稿した時のノリは失いたくない」
ニコニコ動画の「演奏してみた」動画などで活動しているピアニスト・まらしぃ。「千本桜」や「チョコレイト・ディスコ」をピアノカバーしたTOYOTAのハイブリッドカー『AQUA』CMソングで脚光を浴びた彼が、アニソンカバーを収録した『Anison Piano ~marasy animation songs cover on piano~』と自身の楽曲を収録した『First Piano ~marasy first original songs on piano~』という、初のオリジナルソロ作品を2枚同時リリースする。
2008年にニコニコ動画に初投稿、アニメやボーカロイドやゲーム音楽などを独特のセンスでアレンジするピアノが高い評価を集めてきた彼。今もニコニコ動画やYouTubeでピアノ演奏動画を精力的に発表している。00年代後半から現在に至るまでのネットカルチャーや同人音楽シーンで育ってきた彼に、その独特の文化や自身のクリエイターとしての信条について、語ってもらった。
「高校受験を口実に、ピアノを一度辞めた」
――まらしぃさんの名前を知らない人も、「トヨタのCMで『千本桜』や『チョコレイト・ディスコ』のピアノを弾いている人」と言えば、おそらく多くの人が「あ、聴いたことある!」となるんじゃないかと思うんです。
まらしぃ:はい。まさに(笑)。
――なので、まずはそのことについて話を訊ければと思います。そのお話が最初に来た時は、どういう印象でしたか。
まらしぃ:それこそ、もう4回ぐらい聞き直しましたね。何を言ってるのか、ちょっとよくわかんなかったです(笑)。僕は名古屋の人間で、今も名古屋に住んでいるんですけど、名古屋でトヨタさんといえば、もう「それはそれは!」みたいな感じですからね。だからすごく嬉しかったですね。僕は小さい頃からピアノをやってきましたけど、高校受験の頃から大学1年の夏ぐらいまではしばらくピアノを触ってなかった人間で。だから再開してよかったと思いましたね。
――あのCMの演奏を聴いても、他のカバー曲を聴いても、まらしぃさんのピアノは非常にキャッチーだと思います。
まらしぃ:ありがとうございます。確かに、いい意味でも悪い意味でも、わかりやすいのかもしれませんね。楽曲をピアノのアレンジに落とし込むにあたっては、やっぱりある程度引き算をしていくもので。その時に、メロディとか、楽曲の雰囲気とか、ノリというか勢いとか、そういうものを重視しながらやっていくんです。だから、その楽曲のメロディとか曲調が一番伝わりやすい形になってるのかもしれないですね。
――まらしぃさんは、もともと小さい頃からピアノを習っていたんですよね。そこから一度離れたというのは?
まらしぃ:子供の頃は、いわゆるクラシックピアノをずっとやってまして、飲み込みが良かったみたいで、中学に上がるぐらいに専門の先生についたほうがいいと紹介を受けて、習いにいったんです。
――エリートコースですね。
まらしぃ:でも、その先生が厳しい方で。「お前にショパンの何がわかるんだ!」みたいなことを中学1年生の僕に言うんですよ。で、僕、正直言うとよくわかんないんで(笑)。「お前はまず根本から勉強し直してこい」と言われて、何をすればいいのかがまずよくわかんなかったし、そもそも反抗期だったし、先生とケンカして「辞めろ!」って言われて「はい!」って言って辞めたんですよ。そこからジャズを習い始めたりはしたんですけど、練習するモチベーションがやっぱりすごく下がっていて。「もういいや!」って思って、高校受験を口実にピアノに触らなくなったんです。
ピアノ再開のきっかけは『ぷよぷよ』そして東方projectの「ネイティブフェイス」
――高校時代は何にハマってたんですか?
まらしぃ:ゲームの『ぷよぷよ』をやってました。ずっとハマっていて。ピアノを再開したきっかけも実は『ぷよぷよ』だったりするんです。高校時代、『ぷよぷよ』の対戦で友達に勝てるようになったあたりで、どうやらオンラインの対戦があると知って。それで挑戦したらボコボコにされて。悔しくてそのネットの『ぶよぷよ』の場所に通いまくってたら、ロビーチャットみたいな場所で顔見知りみたい友達ができて。そこから同人ゲームの話に花が咲くようになって、それで東方projectの楽曲を知ったんです。
――最初に知った東方projectの曲は何でした?
まらしぃ:「ネイティブフェイス」という楽曲ですね。僕が最初にニコニコ動画に投稿した曲です。ピアノがすごく激しい曲だったんですけど、「ひょっとしたらこれ、弾けるかも」という興味が湧いて。それでピアノをもう一度触ってみたら、やっぱりブランクがあったせいで全然弾けないわけですよ。でも負けず嫌いなんでしょうね、ムキになって練習しました。で、ある程度形ができるようになったので「弾けました!」ってそいつに自慢するのもいいけど、どうせだったら動画サイトに投稿して、そいつにURLでも教えてやろうか、みたいなノリで投稿を始めた。それがきっかけなんです。
――東方projectの楽曲の、どういうところが自分にグッときたんでしょうか。
まらしぃ:もちろん楽曲としてすごく綺麗、美しいっていうのもありました。けど、僕自身、初めて東方の曲を聴くまでに「どういう曲が好きなんですか?」って訊かれても答えられなかったんです。中学校から高校の多感な時期に、ピアノからも音楽からも離れていたので。その時期を経て聴いたからか、とにかく曲が心に刺さったんです。メロディから展開から、何から何までが素晴らしいなと思った。
――その気持ちは、今も自分の中の大切なものとしてある?
まらしぃ:もちろんそうですね。僕が人生でお墓まで持っていきたい曲ベスト5を挙げろと言われましたら「ネイティブフェイス」は入ると思います。残りの4曲はまだ、ちょっといろいろ考えて選びますけど(笑)。