Arca、フローティング・ポイント、Madegg……小野島大が選ぶ、エレクトロニカ系注目の新譜8枚

 日本人クリエイターによる作品を3つ。

くるりのリミックスなどで注目された京都在住の弱冠22歳マッドエッグ(Madegg)こと小松千倫の3作目『NEW』(flau)。サンプリングやフィールド・レコーディングのコラージュ、さまざまなミュージック・コンクレートをフィーチュアしたエクスペリメンタルなダウンビート・エレクトロニカですが、深海を蠢くようなドローン・ノイズと、ゆらゆらと浮かび上がってくる淡いメロディ、ときおり鋭いパルスのように切り込んでくるビートが織りなすアンビエントな音響彫刻は、底が知れない井戸の底を覗き込むように不吉で、かつドリーミーで蠱惑的な世界です。11月18日発売。

 大阪在住の音楽家/映像作家・服部峻のファースト・フル・アルバム『MOON』(noble)。彼のことを知ったのは円盤レーベルから出たミニ・アルバム『UNBORN』(2013)を、円盤店主の田口史人氏から勧められたのがきっかけですが、そこで展開されていた、ジャズ、現代音楽、エレクトロニカ、ノイズ、アンビエントなど既存の音楽フォーマットからことごとくはみ出していながらも、それらすべてを統括し包含するかのようなスケールの大きなオーケストラ・ポップ(とあえて言いたい)は、確かなオリジナリティを感じさせるものでした。それから2年がたってリリースされる『MOON』は、音色・アレンジ・音響デザインから音楽的な振幅・奥行きまで、前作とは比べものにならないほど進化しスケールアップした大傑作です。インド取材旅行中に得たというインスピレーションも織り込まれた内容は、インド/民族音楽のエキゾティックで大河的な包容力を感じさせながらも、エキセントリックな電子実験音楽としての切っ先もさらに研ぎ澄まされ、なにやら得体の知れない異様な怪物に出くわしたような衝撃があります。もとは映画のサントラとして作り始められたということで、映像イメージを喚起する音でもありますが、そこに繰り広げられる荘厳にして終末感の漂う光景は、唯一無二の世界です。まだ20代半ばという服部がこれからどんな変容と成長を遂げるのか。楽しみです。11月13日発売。

 東京出身の梅谷裕貴のソロ・プロジェクト、アルビノ・サウンド(Aibino Sound)のファースト・アルバム『Cloud Sports』(Pヴァイン)。現在20代後半の彼のつくる美しい電子音楽は、エレクトロニカやポスト・ロックで自己形成し、フライング・ロータスのような新種のビート・ミュージックやダブステップのようなベース・ミュージックがバックグラウンドとして鳴っている世代らしい自然体のさりげなさを感じさせるもので、聴いたこともない異物に蹂躙される衝撃というよりも、もっと穏やかに心地よくカラダに染みいってくるような控えめで品のいい味わいがあります。ミックスはサカナクション等の仕事でも知られるAOKI takamasaが担当しています。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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