主宰tomadが語るMaltine Recordsの10年とこれから「才能ある人が音楽を続けられる環境を作りたい」

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『ネットレーベル自体は、これ以上大きくならないが、崩れることもない』

――2010年以降、『Red Bull Music Academy』や『BOILER ROOM』に『SPF420』、最近だと<PC MUSIC>の隆盛など、インターネットを媒介として広まった音楽が世界中へ同時代的に展開され、足並みが揃ったような感覚でした。これはシーパンクが日本で認知され始めた2012年あたりから顕在化されてきたというイメージなのですが。

tomad:僕の持論ですが、逆に日本が早すぎたのではないかと思っています。dj newtownやimoutoidが曲をリリースしたころには、ダンスミュージックとポップミュージックの要素を掛け合わせつつ、ヘッドホンで聴きやすいという、新しいジャンル感――“インターネットっぽい質感”が確立されていました。日本ではそれらの音楽が2010年ごろにネットレーベルを介して盛り上がりをみせ、一旦落ち着いたあとに、シーパンクやヴェイパーウェイヴのようなジャンルが世界中から出てきたというイメージです。日本のほうが地理的に狭いからなのか、拡散するスピードが速くて、さらにブームが収束するのも早いという。

――なるほど。シ―パンクやヴェイパーウェイヴが異端としてではなくいち潮流として受け入れられたのは、日本に土壌ができていたからなのですね。

tomad:それもあると思います。ヴェイパーウェイヴのアーティストが彼らのイメージソースとして日本の高度経済成長期のCMを使っていたように、彼らが日本も欧米も関係なくフラットに様々なイメージから影響を受けて、それをアウトプットしていることなどはとてもSNS以後の感覚だなと思いましたね。今までの欧米中心のクラブミュージックというジャンルではあり得なかった現象が起こっていて、すごく面白いと感じました。

――ただ、これらの音楽に<Maltine Records>が影響こそされても、強く引っ張られることは無かったと思うのですが。

tomad:結構引っ張られているとは思うのですが…。でも、シーパンクやヴェイパーウェイヴは全世界的というよりアメリカ的、とくに中部・テキサスあたりの音だと僕は思っていて。日本の音に彼らは寄せてはいるものの、根本の違いというのは感じていたので、そこに乗り切れなさを覚えつつ、1つの参照点として聴いていました。ただ、そのまま輸入するとクセが強すぎるので、各々のアーティストが“加工貿易“のような形で<Maltine Records>っぽいカラーに直していましたね(笑)。[MARU-110]から[MARU-130]あたりを聴き返すと、その傾向がみえると思います。

――bo enやMEISHI SMILEなど、<Maltine Records>が同時代的に世界へ出てきたアーティストのリリースに力を貸し始めたのもこのころでした。

tomad:そうですね。MEISHI SMILEは彼自身に日本の血が入っていることもあり、自分のアイデンティティーと活動する場所の折り合いのつけ方として、自分のレーベルである<Zoom Lense>を立ち上げたり、<Maltine Records>からのリリースを選んでくれたのだと思います。また、bo enは僕より日本の音楽に詳しくて、深夜に渋谷系のYouTubeリンクが送られてきては、それに朝まで付き合う、ということもしょっちゅうあります(笑)。彼らの無国籍感は面白いですよね。

――ネットレーベルに関しては、<CALMLAMP>のyamazumaさんが書かれた「ネットレーベルの亡骸に愛をこめて」というエントリで「ネットレーベルはとうに二度死んでいる」と綴ったり、最近だと<neo-mo-de records>が失敗に終わり、その一部始終をプレゼンするなど、暗い側面も見えています。

tomad:yamazumaさんのブログに関しては、過剰にネットレーベルという存在に期待されていた時期で、「バブル的な状態になってしまうのは良くない」と思っていたので、そこを突いてくれた良いエントリでした。<Maltine Records>に関して、今の立ち位置があるのは、本当に小さな積み重ねを10年やってきた結果だし、僕自身はネットレーベル自体を「これ以上大きくならないが、崩れることもない」と感じています。後者に関しても、こつこつ積み上げずにはじめから無茶な投資するところから始めたことで、身の丈に合わずに赤字を背負い込んだ、というのが失敗の要因ではないでしょうか。

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