主宰tomadが語るMaltine Recordsの10年とこれから「才能ある人が音楽を続けられる環境を作りたい」

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「色んな人を新たに音楽の世界へ導く役割があると思った」

――『Maltine Book』内の「日本のネットレーベルマップ」では、これまで設立された・閉じられた日本のネットレーベルが一覧となって掲載されています。表を見てもわかる通り、ネットレーベルの隆盛は2010~11年がピークでした。

tomad:この本ではもちろん全てを網羅出来ているわけではないのですが、この時期に多数のネットレーベルが出てきたことはわかります。ただ、<Maltine Records>も僕もそれらを全部把握していたわけもなく、近しいところとは繋がりつつ、他のレーベルはネットで名前こそ見ていましたが、深くチェックはしていませんでした。『Bandcamp』以降のバンドサウンドやシンガーソングライターを多くリリースしているネットレーベルは、また別の文脈でしょうし。

――その繋がりを可視化したのが『Maltine Book』内の座談会「レーベルオーナー対談 Sabacan Records/Bunkai-Kei records/TREKKIE TRAX」だといえますね。

tomad:<Sabacan Records>は、ページを一目見ただけで、自分たちがやろうとしていることに近いとわかったので、Guchonさんにリリースをお願いすべく、僕からメールしました。彼らもブレイクコアやハードコアの流れを受けているところもあるので、音楽的な共通点もあって仲良くなりました。<Bunkai-Kei records>に関しては、Go-qualiaさんとNaohiro Yakoさんが自分たちでニコニコ動画に公開していた作品を世間に広めるため、「<Maltine Records>からリリースできないか?」と持ちかけらたのですが、あまりに自分たちのレーベルカラーと異なるため、新しいレーベルを立ち上げることを提案し<Bunkai-Kei records>が誕生しました。<ALTEMA Records>もサイトを見て共通の感覚を持っていると感じたので、コンタクトをとりつつイベントも一緒に行い、友好な関係を築きました。

20150825-tomad9.jpg「TALK LOST DECADE talks about Maltine Recoeds tomad/tofubeats/okadada/DJ WILDPARTY」。

――「TALK LOST DECADE talks about Maltine Recoeds tomad/tofubeats/okadada/DJ WILDPARTY」では、4人で行っているイベント『LOST DECADE』と<Maltine Records>について対談しています。同レーベルを初期から支えるtofubeats/okadada/DJ WILDPARTYについて、それぞれとの出会いを聞かせてください。

tomad:dj newtownことtofubeatsに関しては、<Maltine Records>設立当初からお互いのブログを行き来しており、『mixi』で友達申請をしたことから、ネット上での会話が始まりました。彼の作品はトラックメイクも見事でしたし、なにかの機会にリリースできないかとタイミングを探していたら、2009年に『WIRE』へ参加するという話を聞いて。ヒップホップ的ではない、テクノ的な音楽を発表するときにdj newtownという名義を使いたいという話がありそれきっかけでリリースに至りました。DJ WILDPARTYに関しては、僕がブログにDJミックスをアップロードしていたときに彼から「ブレイクコア系のイベントをするので出演して欲しい」と依頼されたことから交流がスタートしました。okadadaさんはほかの2人よりもあとで、[MARU-049]『That Is My house』のコンピで公募をした時に、応募してくれたのが最初の出会いです。その時点で声をかけて“無職EP”こと[MARU-044]『The Unemployed EP』がリリースしたのですが、諸事情でコンピより先にEPが出ることになりました。

――『LOST DECADE』はその後規模を拡大させ、代官山UNITを埋めるほどになりました。彼らは<Maltine Records>に関わるアーティストのなかでも、とくに外へアクセスする意識が強かったように感じます。

tomad:個人的に表に出ようという意識は特にありませんでしたが、tofubeatsに関しては、その気持ちが強く、それにみんなが引っ張られたという部分はあるでしょうね。あと、自分たちが特別アピールしたわけでもないですが、世間から“新しい集団が出てきた”という目線で見られることが多く、スポットライトを浴びやすい状況だったというのもあります。そこから表に出ようという人もいた反面、逆にいい意味で日陰に逃げていく人もいたと思います。

――また、tomadさんは2014年の『東京』開催前に「ネットレーベルを続ける意義を感じなくなった」ことをKAI-YOUのインタビューで明かしています。

tomad:まずはネットレーベルだけが役目を担っていた「個人のアーティストが楽曲を発表しやすい」という部分が『Sound Cloud』や『Bandcamp』の登場により、魅力的に感じなくなったこと。こちらが動かなくても作品をリリースし、ファンを増やしていくことが可能になった。だからこそ、<Maltine Records>がアーティストにとっての踏み台的な役割しか果たさなくなってしまったのかも、と考えました。巣立ったアーティストがすぐにフィジカルリリースするようだと、<Maltine Records>が無料でそのアーティストの宣伝をしているだけのように感じて、寂しさも少しありました。

――そこからtomadさんはどういう考え方にシフトして立ち直ったのでしょう。

tomad:もう一度「<Maltine Records>の役目はなんだろう」と考えました。<Maltine Records>はインディーズやメジャーレーベルのように、お金をかけてCDを作成して、それを販売して採算を取るという組織ではありません。だからこそ、ファンとの交流から、アーティスト自身が本当に出したい作品を提供できるはずだ、と思いなおし、続けていく意義を感じました。また、これは『Maltine Book』出版にも繋がるのですが、僕がやっていることって、ある意味で編集の作業に近いのかなと思ったんです。流通の面でネットレーベルが持つ価値は低下しましたが、単に音楽をリリースするのではなく、イラストと音楽、それぞれのアーティストを組み合わせて彼らの可能性を広げたり、イベントを企画したりアパレルを販売してブランドを作ったり。そうすることで色んな人を新たに音楽の世界へ導く役割があると思ったし、その分野で自分はまだ戦っていけるのではないかと考えるようになりました。

――8月2日には10周年イベント『天』を開催しました。イベント後には色んな感情を出しきって喪失状態になるアーティストも多々いましたが、tomadさんはどんな心境ですか?

tomad:けっこう普通だったな、という感想です(笑)。このイベント自体はコンセプチュアルなものではなく、歴代のアーティストをオールスター的にラインナップしたので、ベタだったなというか。もちろん、古いメンバーだけを集めても同窓会的になるので、©OOL JAPANやin the blue shirt、happy machineといったニューフェイスにも出てもらい、次への可能性も見せました。最後に「ハッピーマテリアル」を掛けたのは、重すぎる雰囲気が嫌で中和したかったのと、同世代にしか理解できない高度な文脈を持ちつつ、ネット住民が一体になれる曲だったから。あと、アーティストが襲われている喪失感については、すでに『Maltine Book』の編集で<Maltine Records>の10年を振り返っていたので、僕はダメージが少なかった(笑)。

――近年はデイイベントも増え、お客さんも低年齢化しました。『東京』や『天』を見た10代のリスナーには、人生が変わってしまうくらいの衝撃を受け、“マルチネ第二世代”として作り手側に回る人もいると思います。

tomad:そうやって、マルチネを聴いて音楽を作る立場になるという人たちがいるのは、一過性のもので終わらないということでもあり、健全な“マルチネ道”的サイクルを感じられて嬉しいです。

――本の話に戻りますが、書き手として和田瑞生氏や天満屋龍楽 a.k.a.神野龍一氏、Patrick St. Michel氏、Lil $ega氏など、<Maltine Records>やネットレーベルの歴史を見てきた人物たちのほかに、日高良祐氏や上妻世海氏といった、哲学・社会学の観点で綴る人物も参加しています。

tomad:初めはもっと年上の書き手にお願いしようと思っていたのですが、同世代で同じ価値観を提示できる面々を揃えようと決めました。そのうえで2010年代に<Maltine Records>がどう存在していたかを残せればいいなと。Lil $ega氏に関しては、日高氏の「日本ネットレーベル史」と被らない内容で、シーパンク以降のネット音楽について書いて欲しいと依頼しました。彼はある意味、僕よりもディープにインターネット上で活動する音楽家たちと向き合ってきたと思っていて。<Maltine Records>のアーティストたちは、ほかのネット上で活躍する人たちに比べて、表に出たいという気持ちが強いけど、そうでないインターネットの奥底に渦巻く人たちも多く存在する。彼らと向き合えるのはLil $ega氏しかいないので、どうしても参加させたかった。

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