20th Anniversary Album『尽未来際』インタビュー
BRAHMAN・TOSHI-LOWが語り尽くす、言葉と格闘した20年 「あざとい考えが頭に出てくる前に、先に歌が出るような体にならないと」
「俺が抱えてた矛盾は、もう矛盾のまま矛盾なく抱えていいんだ」
一一そこにあったのが東日本大震災。語弊はあるけど、ブラフマンとTOSHI-LOWくん個人に、いい変化をもたらしましたよね。
TOSHI-LOW:まぁね。失礼な言い方かもしれないけど、救われちゃったんだよね。矛盾をどうするかずっと悩んでて、その揺れがマックスだった時期に震災があったから。「あぁ、俺がずっと思ってた死生観、俺が抱えてた矛盾は、もう矛盾のまま矛盾なく抱えていいんだ!」っていう感覚。ほんとに壊滅して誰一人生きてないんじゃないかと思える町に行って、でも東京戻れば飲み屋がやってて飯も食えて……。矛盾にケリつけなきゃいけないと思ってたけど、そうじゃなくて、これは矛盾じゃない、現実の世界にあることだって。だから俺は、すごく生きやすくなった。それこそさっき言った“発見”が初めてあったかもしれない。
一一矛盾だと思っていたものが、ありのままの現実だった。
TOSHI-LOW:そう。それは東北を行き来するなかで気づいたこと。自分が少し肯定された気がしたし、今まで自分が作ってきたものも否定しなくなった。歌詞読み返すと、俺が今ここで何すべきかもうすでに書いてある。20年前の自分が“予見し 制御せんがために 知るための 行動を”って書いてるんだから「あぁ、行動するのか。じゃあ行動しよう!」と。そこは早かったよね。
一一震災以降のTOSHI-LOWくんは、まず言葉が変わりましたよね。他人を容赦なく怒鳴りつけるぶん、同時にものすごく優しくなった。
TOSHI-LOW:……そんなに怒鳴ったっけ?
一一私、どんな本出したと思ってんのよ。(注・書籍『東北ライブハウス大作戦〜繋ぐ』。被災地に作られたライブハウスのドキュメント。取材の中で最も多く出てきたのは「TOSHI-LOWから叱咤された」「怒鳴られた」という話だった)
TOSHI-LOW:ははは。そうだね。でも俺、ほんとに嫌いなものって手元に置かないから、回りにいる人が嫌いじゃないんだよね。好きだから余計苛立ったり、お節介するところから始まるわけで。それをこの言葉で言うのは一番芸がないなぁと思うけど……むちゃくちゃ愛じゃん? って思う。むしろ、それしかねぇって思うところもあるから。
一一愛。突き詰めればその言葉になるんだっていうことを、今さらっと話すことにもびっくりします。
TOSHI-LOW:うん。清志郎とか歌わされたら、もう否定しようがない(笑)。でも人生の大事なことは全部ステージで教わってるなぁと思うし、そこは反発のしようがないんだよ。理解じゃない、もう体感だよね。
一一ずっと考えてきた“死”の裏には“生”があった。では、今体感している“愛”の裏にはどんな言葉があるんですか。
TOSHI-LOW:愛の裏に? 愛の裏には……これは反対語って言葉ではないんだけど“狂気”があればいいなと思う。俺も綺麗なことばっか考えてるわけじゃないし「愛してるぜ、幸せになってくれ」なんて1ミリも思ってない。むしろ今、ムクムクと反社会的な考えが出てくるの。もっといろんなことが滅茶苦茶になっちゃえばいい。世界が『爆裂都市』みたいになればいいのに、とか思う(笑)。20周年で、映画『ブラフマン』もあって、自分のいちばん自然なところが晒されてるぶん、今の俺が何になりたいって、戸井十月(『爆裂都市』のキチガイ兄役)だもんね。それで暴れ狂いたい(笑)。
一一ははは。それって破壊衝動なんですかね。
TOSHI-LOW:あぁ、近いのかもね。でも年齢重ねちゃった今、結局人が作ったものは壊せないんだってこともわかってるから。たとえば俺が「トイズファクトリーをぶっ壊したい!」って言っても、それは人の会社じゃない? 人の作ったものの中で暴れても意味を感じないし、そこで小さなシステム壊しても、それはその時の怒りがそうさせるだけであって、自分にとって価値のあるものじゃない。だったら、自分が作ったものしか壊せない。本当に意味や価値があるっていう意味でね。