市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第20回

BABYMETALが“元洋楽少年”を熱狂させる理由【海外篇】 市川哲史が海外ファンの反応を分析

 我々が自国日本の流行音楽の歴史を知っているように、海外のロック・リスナーは当然、<黒人音楽→ロックンロール→ビートルズ→ハードロック(→ヘヴィメタル)&プログレ→パンク/ニューウェイヴ→……>と続く自分たちのロックの歴史を熟知している。

 ところがV系はそんな洋楽ロックの歴史的脈絡を一切無視して、あらゆる音楽ジャンルを混ぜ合わせたのだから、結果、外国人が聴いたことのない音楽になるわけだ。

 加えてガタイがデカい者がほとんどの海外では、線の細いカワいい男の子がロックをやってること自体が珍しいだけに、ジャパニメーションの人気高騰を受けV系バンドも「アニメから飛び出してきたようだ」と人気を博したとも言えよう。

 とにかくリスナーの国籍が日本だろうが外国だろうが、今まで聴いたことがないもの/見たことがないものがいちばん面白いのである。

 そしてBABYMETALもまた然り、あんなん誰も観たことなかったのだ。

 ポニー&ツインテールにニーソックスのロリ女子も初めてならば、目にも留まらぬ高速の一糸乱れぬキレっキレダンスも初めて――まさに日本のアイドルにしかできない、国籍問わず観る者を圧倒する表現手段だ。しかもベビメタのダンススキルはアイドルたちの中でも卓越してるのだから、ヤられて当然である。

 裏を返せば彼女たちがアイドルだったからこそ、この特異なBABYMETALワールドは実現したと言える。日本のアイドルはアメイジングなのだ。誇りに思え。

 『LIVE IN LONDON』やYou Tubeで世界各国のライヴを観ると、あらゆる観客がとびきりの笑顔でベビメタを愉しんでる様子が最も印象深い。宮藤官九郎が天野アキに劇中言わしめた、「みんなを元気にするのがアイドルの仕事」そのものだと思う。

 またネット上では、海外のヘヴィメタ村の住人たちが<BABYMETALは新しいヘヴィメタルの形なのか>本気で討論しているし、彼女たちを徹底的に否定する<ヘイター>まで世界各国に出現してるではないか。いいね!! この大人げない現実感。

 そういう意味ではベビメタが100%未知の音楽ではなく、かつて全世界を席巻した音楽ジャンル<ヘヴィメタル>に立脚してることもまた、大きい。そもそも本家のメタル自体が長く梗塞してるからこそベビメタはより新鮮で、まずは面白がられたはずだ。

 《Kerrang!》や《Metal Hammer》からとりあえず賞を貰えたのも、ジューダス・プリーストやらアンスラックスやらメタリカやらスレイヤーやらメガデスやらリンプ・ビズキットやらスリップ・ノットやらレジェンドたちからの記念撮影ラッシュも、同様である。

 今年に入り、「オンリーワン・ジャンルになりたい」と意志表明するSU-METALを見る機会が増えたが、大丈夫、既にこれだけ食いつかれてるのだから立派なオリジナリティーではないか。

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