花澤香菜は第2の松田聖子となるか? 栗原裕一郎が新作の背景と可能性を探る

花澤香菜は松田聖子となるか

 ポスト渋谷系と呼ばれた人たちや、それに近いところにいた人たちがアニソンに流入していることとか、アキシブ系なる名称が浮上したもののあまり定着しなかったことなど情報として仄聞してはいたのだけれど、何しろアニメにさっぱり疎いので、実際の音楽にはほとんど触れずに来てしまった。

 北川勝利のROUND TABLEについても、渋谷系のブームが終焉しつつあるときに渋谷系フォロワーとしてデビューしてしまった不遇なグループというところで認識が止まっていて、以降長らくROUND TABLE featuring Ninoとしてアニソンで活躍してきたという事実を、花澤香菜を聴き始めてようやく知るに及んだという不明具合だったりする。

 前出の「ナタリー」インタビューで、『claire』の完成度を指して手応えを聞かれた北川は「アニメソングに関わってからちょうど丸10年で、ようやく実を結んだなっていう感じはすごくある。10年前とは状況ががらりと変わったというか」と述懐していた。

 年頭からアニソンのアーカイヴを大急ぎで辿っていたわけだけれど、ちょうどその最中に、小野島大氏によるミトのインタビューが本サイトに掲載され、大反響を呼んだ(参考:クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」)。

 ミュージシャンとして確固たる評価を確立しているように見えるミトが、アニソンやアイドル、ボーカロイドなど、まあ、忌憚なくいえば、別のものとして分けられ侮られている音楽をライバルに見据えて危機感を募らせていることが意外で驚きを呼んだものと思われるが、実際、小野島さんも「アイドルやアニソンと同じ舞台で勝負することが必要でしょうか」と問い返していた。

 この10年くらいのアニソン状況を概観しながら思い起こしていたのは、70年代から80年代にかけて歌謡曲に起こった変化だった。最初、商業的で非創造的な歌謡曲と、非商業的で創造的なニューミュージックという対立が顕著だったのが、ニューミュージックの人材が歌謡曲へ流入し始め、歌謡曲の作家がニューミュージックの人たちへ楽曲提供したりするようにもなり、両者がハイブリッド化していくというのが70年代に起こったことだった。そしてそのプロセスは松田聖子というアイコンの登場によって完了を迎え、光景は一変した。

 花澤香菜は松田聖子になるだろうか。そんなことを考えながら『Blue Avenue』をリピートしている。

■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter

■リリース情報
『Blue Avenue』
発売:4月22日(水)
価格:初回生産限定盤 ¥4,104(税込)
   通常盤 ¥3,240(税込)

<収録内容>
1. I ♡ New Day !
2. ほほ笑みモード
3. Nobody Knows
4. ブルーベリーナイト
5. Trace
6. こきゅうとす
7. Night And Day
8. タップダンスの音が聴こえてきたら
9. We Are So in Love
10. プール
11. Dream A Dream
12. マジカル・ファンタジー・ツアー
13. 君がいなくちゃだめなんだ
14. Blue Avenueを探して

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