スチャダラパーが語る“味”ありきのヒップホップ論「カッコよくするだけだったら誰でもできる」

「遅くするとかっこいいと思って遅くしてたけど、今はぴったり(笑)」(Bose)

ーー最近バンドと一緒にラップやる人が多いじゃないですか、環ROYくんとか。

Bose:たぶん同じような発想じゃないかな。ターンテーブルとラップだけってさ、これ2時間やるもんじゃねえなって(笑)。

ーー今さらそんなこと言うかね(笑)。

Bose:だってラップのライヴで2時間ターンテーブルだけでやる人なんてあんまりいないもんね。だいたい1時間なのは必然性があるんだよ(笑)。自分らはそれをなんとか面白がってやろうと思ってやってるけど、工夫して持たせてるとこあるもんね。そりゃバンドになったらより見やすいライヴにはなると思う。ただラップ2時間続けるのもしんどいし。

ーーなるほどね。

Bose:でも、バンドと一緒にやるのもバランスが重要なんだよね。スチャがやってる感じなんだけどバンドでできてる、という感じにするのがなかなか難しくて。

ーーチャットモンチーとやってるやつはどうだったんですか。

Bose:アッコちゃん(福岡晃子)がドラム叩いてそれをループして…って作っていきましたね。チャットも2人になってループとかを使ってやり出した時だったから、ちょうどタイミングがよかったですね。

ーーほかにキーになるような曲というと。

ANI:「ザ・ベスト」とか。すげーいい曲できたと思った。

ーー今のスチャダラパーの心境が素直に出てる歌詞ですね。

Bose:そう。歳をとってきてね。周りもみんなこういう歳になってきて。曲ももの悲しい感じがいいよね。

ーー今作はそういう年齢なりの実感を感じさせるような曲と、スチャっぽい皮肉な、ウイットに富んだ寸鉄人を刺す感じの言葉がうまく併存してますね。

Bose:ねえ。もう寅さんの年齢超えてきたでしょ?(『男はつらいよ』の主人公・車寅次郎は、映画第一作公開の時点で38歳の設定)

ANI:山田洋次が『幸せの黄色いハンカチ』を作ったのが42歳ぐらいらしい。(正確には46歳)

Bose:ほら、超えてきちゃったから。そりゃ哀愁も出ますよねえ。

ーー全員40代後半?

Bose:うん、45,6,7…

ーーへたしたら次のアルバム出す時は全員50代かも。

ANI:やばいねえ…。

Bose:やばいねえ…。

ーー高齢化社会に向けて、リリックの内容も、これから減っていくばかりの若者層に向けるよりは…。

ANI:(笑)高齢者に向けた方が。

Bose:マーケット的には正解だよ(笑)。

ーーそうか、スチャの曲のテンポが遅いのはそういう理由か(笑)。年齢的に速いのができない(笑)。

Bose:前はさ、遅くするとかっこいいと思って遅くしてたけど、今はぴったり(笑)。ほっといても93(BPM)ぐらいになるからさ(笑)。

「ヒップホップって、音だけに魅せられたんじゃない」(Bose)

ーーヒップホップも新しいものがどんどん出てきて日々更新してますが、スチャの考えるヒップホップらしさって何ですか。

Bose:いろいろあるけどなあ…味が出てないといやですよね。全てのアートに言えるんだけど、シュッとするだけだったら誰でもできるだろう、みたいな。

ANI:そうねえ、このご時世でね、デジタルで。

Bose:カッコよくするだけだったら誰でもできる。その人なりの面白み…ダサ美っていうか。味…としか言えないけどね。

SHINCO:形跡っていうか筆圧っつーか。

ーーそういうヒップホップぽさみたいなものにはこだわりたい。

ANI:こだわりたい…というよりは出ちゃうんじゃないですか。これキレイすぎるからレコード・ノイズ入れておこうか、みたいな。

Bose:なんか…若い人とやってると、こっちはすげえ頑張って若い人のテンポにあわせてシャキシャキやってるつもりなんだけど、「スチャさんとやるとユルくていいすよねえ」って言われたりして(笑)。ほんとよく言われる。どこでもそうなんだよ! だからその「味」が出ちゃってるんだろうね。こっちは隠そうと思ってるんだけどさ。なるべくシャキシャキやってるつもりなんだけど。

ーー生まれついてのものだ。

Bose:そうなってしまったし、みんなもそれを期待してる、みたいな。ちょっとずれてる感っていうか、このダサい感じがなんでかっこいいんだろう、みたいな。ヒップホップって、音だけに魅せられたんじゃないんですよ。そういう全体の美学がヒップホップだと思ってるから。なんかその…かっこいいのをかっこよくやってどうすんだよ!みたいな。

ANI:(笑)あはははは!

Bose:つい思っちゃう、なんでも。そのままやってどうすんだよ!っていう。

ANI:かっこよくないじゃん!みたいな。

Bose:そうそう。いちばんかっこよくないじゃん、っていう。

ーー早川義夫ですね。「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」

ANI:そうそう。

SHINCO:ちょっとスキがあったほうがいいのかもしれない。

Bose:ANIなんかもさ、なんでもかっこよくやろうと思えばできちゃうんだけど、ファッションとかも。

SHINCO:(笑)わはははは!

Bose:だけどあえてグレーっぽく(笑)。

ANI:うううう(笑)。

ーー一度かっこいいファッションでばっちり決めてくださいよ。

Bose:やろうと思えばいつでもできるよね、シュッとしたやつね。

SHINCO:そこをわざとこぼしてシミを作ったりして(笑)。

ANI:…んなことないすよ!もっとシュッと『LEON』みたいなオヤジになりたいですよ!(笑)

Bose:なりたいんだ? あはははは!(笑)

ANI:全然なりたい。そうしないといい女が寄ってこない(笑)。

ーー女をはべらかすのがラッパーの基本ってことですか(笑)。

Bose:なりたいんだ?

ANI:ちょっとなりたい(笑)。

Bose:「ちょっと」ね。でもああいう人って「すげーなりたい」んだよ。「ちょっとなりたい」じゃなくて「すげーなりたい」じゃなきゃダメなんだよ。

ーー欲望が足りてないわけだ(笑)。

ANI:そうかあ…。

Bose:もっとハングリーにならなきゃ。

ANI:生活はだいぶハングリーですよ (笑)。

ーーANIは今作のトレーラーで「今回のアルバムはミリオン売れるのを期待する」みたいなこと言ってたじゃないですか。

ANI:いっつも思ってますよ、そんなの(笑)。

Bose:思ってても見込みが甘いっていうのがあるよね(笑)。

ANI:いや、まだわかんないよ。世の中いつ間違いが起きるかわからないから(笑)。

Bose:それはそう。売れるもんにセオリーがあるわけじゃないからね。

ーースチャのやってることに突然世の中がシンクロするかもしれない。

Bose:そうそうそう。バシッ!ヤバい!見られた!みたいな感じで。

ANI:見つかった!みたいな。

Bose:坂上忍みたいに急に脚光を浴びることもあるからさ(笑)

ーー今作も世の中へのスチャの存在アピールみたいなものだから。

Bose:そうそう。それでどういう反応が来るかがまだ見えてないですからね。

ANI:「たまにはどうですか、CD? CDもいいもんですよ!」って。

(取材・文=小野島大)

20150121-scha2.jpg
スチャダラパー『1212』(初回限定盤)

『1212』特設サイト

■リリース情報
『1212』(読み方:ワンツウワンツウ)
発売:2015年1月28日(水)
価格:<初回限定盤>(CD+DVD) 価格:¥3,241+税
   <通常盤>(CDのみ) 価格:¥2,315+税

<CD収録内容>
1. イントロダクションワンツー
2. スチャダラメモ
3. ゲームボーイズ2
4. ワープトンネル feat.ロボ宙&かせきさいだぁ
5. M4EVER
6. ザ・ベスト
7. 哀しみturn it up
8. 中庸平凡パンチ
9. A.K.A ETC
10. Off The Wall feat.清水ミチコ
11. 恋のペネトレイト
12. Boo-Wee Dance

<DVD収録内容>
2013年開催スチャダラパーワンマンライブ『23』
※23曲+MC入り123分
※初回限定版のみ
1. ザ・コストパフォーマンス登場
2. オープニング
3. アーバン文法
4. Under the Sun
5. ライツカメラアクション
6. From 喜怒哀楽
7. MC1
8. ヒマの過ごし方
9. Boo-Wee Dance
10. アフター ドゥービー ヌーン
11. MC2
12. 23ch FUNK
13. GET UP AND DANCE
14. FUN-KEY4-1
15. MORE FUN-KEY-WORD
16. LET IT FLOW AGAIN
17. 何処か… どっちか…
18. MC3
19. スチャダラメモ
20. MC4
21. コロコロなるまま
22. ヨゴレタヒデヲ
23. 今夜はブギー・バック
24. MC5
25. Shadows Of The Empire
26. ジャカジャ~ン
27. Good Old Future
28. ザ・ベスト
29. エンドロール
30. サマージャム2013
31. 彼方からの手紙

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる