6年ぶりオリジナルアルバム『1212』インタビュー
スチャダラパーが語る“味”ありきのヒップホップ論「カッコよくするだけだったら誰でもできる」
「最近はバンドでやり直すってことも考える」(SHINCO)
ーー6年前のアルバムと比べることにどれだけ意味があるかわかりませんが、トラックはよりシンプルになってきた気がします。
SHINCO:ああ、そうですかねえ。
ーーシンプルなトラックでちゃんとリリックを聴かせる。王道、と言っていいのかわからないけど。
Bose:ああ、そこはもう基本的な好みが変わらないからなあ。
SHINCO:最近はバンドでやり直すってことも考えるんですよ。バンドでもできるといいなあ、と思いながら作ってる。
Bose:ここ1~2年バンドを入れるライヴをよくやってるんですけど、ターンテーブルでビートを出してバンドが乗っかるとか、完全にバンドでやるとか、そういうのが面白くて。ヒップホップ的な、ターンテーブルだけで制約がある状態と、少し自由なのが混ざってるぐらいのバランスがちょうどよくて。音源を作りながらも、これをバンドでやるときはどうするか想像しながら作る、という部分は変わってきたかも。
ーーああ、そういうバッファを残して作ると。
Bose:うん、だからシンプルになってるのはそういうのもあるかも。ベースとか入る隙を考えながら作ったりね。
ーーなるほどね。スチャの前ってバンドやってた経験とかあるんでしたっけ?
Bose:全然ないですね。僕ら楽器が演奏できないから、もともと。持ったことないし。
ANI:レコードしか聴いてないっていう。
ーーレコードしか聴いてない奴ができる音楽がラップだった。
Bose:ですねえ。ターンテーブルやサンプラーは楽器だといえば楽器なんですけど…SHINCOとか、いいキーボード一杯持ってるけど、直には弾けないからね。指一本ずつでこう…
ーー単なる入力装置であると。
Bose:そうなんですよ。
SHINCO:始める前にドラムマシーンだけは持ってましたけどね。
Bose:ドラムマシーンも楽器といえば楽器だけど…。
SHINCO:LL・クール・Jのファーストみたいに、ドラムマシーンだけでできるんじゃね?と思ったから。
Bose:そこから楽器を始めたっていいのにやらなかったっていうのが、いわゆるミュージシャンとはどうも違いますよね。
ANI:(ほかのミュージシャンと)会う機会があっても、全然共通の話題がない…(笑)。だから音楽の話とかしないようにしてる(笑)。
Bose:いや、合うところもあるよ。聴く部分とかさ(笑)
ANI:聴く部分は合うけどさ、聴き方も違うじゃん。「あそこブレイクやばいでしょ!」「は?ブレイク?」(笑)
Bose:たぶんギターに興味を持った人とか、違いますよね。たとえば木暮(晋也)さんとか一緒にいると、いまだにギターのことをずっと考えてるもんね。エフェクターのこととか、鳴りがどうとか。その聴き方は(自分たちに)ないもんね。
ANI:鳴りとか、大きければいいじゃんて。
Bose:究極的には(弾かなくても)サンプリングすればいいじゃん、って発想になる。
ANI:サンプリングでよくね?って(笑)
ーーでもそこは最近バンドでやるようになって変わってきたわけでしょ。
Bose:逆に自分たちのバンドの人たちは僕らのヒップホップ的な感覚もわかって演奏してくれてる。特に笹沼(位吉)さんとか松田(浩二)さんとか、すごいループ的なこともわかりつつやってくれるから。
ANI:話が早いすね。
Bose:サンプリングで作って演奏はしにくい曲とかあるじゃないですか。こんなところでベースは弾きにくい、というのを逆に楽しんでやってくれたりするから。そういう人だと話はできるけど。だからこれが、よそのバンドと一緒にラップやらなきゃいけない時は、やっぱり難しいですよ。バンドの感覚で演奏している人にどう説明したらいいのか。だから…ラップしてて邪魔なんだよ楽器って(笑)。いやほんとマジな話すると。ドラムだけでいいよって言いたくなるんだけど(笑)。でも演奏は必要だから。それがわかってるベースや鍵盤はなかなかいないですよ。そういう意味でいまやってるバンドの人はいいんですよ、すごく。余計なことしなくて(笑)。
ーーだったらLL・クール・Jみたくドラムマシーンだけでいいじゃん、とはならないの?
Bose:なんですけど、やっぱりより自由な部分が必要なんですよ。僕ら、もともとターンテーブルでやってるほうが気持ちよかったんだけど、でもギター・ソロとかもやっぱりかっこいいし、ギター・ソロのあとにラップに戻ると盛り上がったりするんですよ。あとバンドでやってるほうが人数も増えて見所も増えるし、ライヴはラクで(笑)。
ANI:持つよね。
Bose:持つ持つ。ターンテーブルだけで2時間以上やってるとやっぱ限界があるんだよね、場を持たせるのに。だからMCとしてはすごくラクで。それを楽しめるようなゆとりが出てきたから。