宗像明将がNegicco『Rice&Snow』をレビュー
早くも“2015年のアイドル名盤”確定? Negiccoの新アルバムを重層的にした4つの軸
Negiccoのニュー・アルバム『Rice&Snow』を最初に聴き終えたとき、情報量のあまりの多さに感嘆した。そしてこれを超えるアイドルポップスのアルバムは2015年に出てくるのだろうか、とも考えた。楽曲やサウンドのクオリティが高い、というだけではない何本もの軸が交錯していることも『Rice&Snow』を重層的なものにしている。
まずひとつめは、「新潟発Negicco」をアルバムのテーマに掲げていることだ。しかし、田島貴男、西寺郷太、矢野博康、北川勝利、三浦康嗣、吉田哲人、スカート、蓮沼執太、Shiggy Jr.、Orlandなど、本作に参加した作家陣の名前を見たとき、まず思い出すのは2013年に「アイドルばかり聴かないで」を楽曲提供した小西康陽の「そうか、ピチカート・ファイヴの音楽的後継者は彼女たちだったのか。」というコメントだ。渋谷系の後継者としてのNegicco、というイメージは『Rice&Snow』の情報だけを見ると強化される。
それに対して、『Rice&Snow』には対照的な2曲が収録されている。小西康陽と同じくピチカート・ファイヴでもあったORIGINAL LOVEの田島貴男が作詞作曲編曲した「サンシャイン日本海」と、□□□の三浦康嗣が作詞作曲編曲した「BLUE, GREEN, RED AND GONE」だ。
「サンシャイン日本海」は、2014年にシングルとしてリリースされた楽曲。異常な情報量の『Rice&Snow』の中で改めて聴いたところ、「サンシャイン日本海」のサウンドの比較的シンプルな構造に、田島貴男の「引き」の美学を気づかされた。そして曲名から新潟県の地域性を強く意識し、歌詞でも新潟県の風景が歌いこまれている。
それに対して「BLUE, GREEN, RED AND GONE」は、歌詞に出てくるのが「首都高」なのだ。ASPARAGUSの一瀬正和が叩く生々しいドラムがサウンドの大きなアクセントとなっている点も三浦康嗣らしい大胆さだ。
描く情景が真逆の2曲。だからこそ、アルバムとしてのプロデュースを担当しているのが、Negiccoと同じく新潟県が地元であるconnieなのは重要だ。『Rice&Snow』の最後を飾る「ありがとうのプレゼント」は、Negiccoが作詞、connieが作編曲というに新潟勢による楽曲だが、こうした朴訥さが絶妙にブレンドされている。「新潟発Negicco」のアルバムとして、東京へ届く構造になっているのだ。
ふたつめは、そのconnieの存在感の大きさだ。13曲中9曲が彼のプロデュースとクレジットされている。若手の編曲した楽曲をプロデュースするだけならまだわかるが、ROUND TABLEの北川勝利が編曲した「クリームソーダ Love」や、矢野博康が編曲した「二人の遊戯」、connieと吉田哲人が作曲して吉田哲人が編曲した「Space Nekojaracy」、田島貴男が編曲した「光のシュプール」までconnieのプロデュースとなっていることには驚いた。
近年では花澤香菜への楽曲提供でも活躍する北川勝利が編曲した「クリームソーダ Love」では、KIRINJIの千ヶ崎学がベースを弾いているほか、2014年のアルバム「promenade」が話題を呼んだ北園みなみがマニピュレートを担当し、この顔ぶれならではのドリーミーなポップスになっている。北園みなみがプログラミングしたストリングスやブラスも鮮やかだ。
元Cymbalsの矢野博康が編曲した「二人の遊戯」は、90年代風味のエレポップで、『Rice&Snow』の中でも特にカラーの濃いサウンド。Pan Pacific Playaから参加した、BTBによるトークボックス(ヴォコーダーと混同されがちだが異なる)のエフェクトがかかったヴォーカルと、KASHIFによる往年の高中正義のようなギターソロも強烈だ。
吉田哲人が編曲した「Space Nekojaracy」は、2014年にチームしゃちほこにアシッドな「いいくらし」を楽曲提供した彼らしいエレクトロ。大胆かつ流麗なストリングス・アレンジは、ユメトコスメの長谷泰宏によるものだ。このサウンドをバックにして、やや背伸びをしているかのようなNegiccoのヴォーカルも聴きどころである。
田島貴男が編曲した「光のシュプール」は、元ORIGINAL LOVEの小松秀行をベースに、NONA REEVESの小松シゲルをドラムに迎えた鉄壁の布陣によるサウンド。オリコン週間シングルランキング5位を獲得した記念碑的な楽曲だ。
こうした作家陣と向かい合ったconnieのプロデューサーとしての能力の高さは、『Rice&Snow』によってさらに評価すべきものとなった。