園子温バンド、デビューライブに長谷川博己ら出演 V系メイクで即興ポエムを叫び上げる
『石崎ひゅーい×園子温バンド 対バンLIVE』が2014年6月21日、新宿LOFTにて開催された。同イベントは、園子温バンドにとってのデビューライブであり、その内容は一言でいうと、園子温ワールドのむきだしの、なりふり構わない衝動に満ちあふれたものであった。
園子温バンドとは、2015年公開予定の新作映画『ラブ&ピース』内で結成されているバンド「RevolutionQ」のメンバーVo鈴木良一役の主演である長谷川博己に代わり、園子温がVo.を務め、Gu.内藤愁役の俳優・奥野瑛太(出演『サイタマノラッパー』、『クローズEXPLODE』他)、Ba.デッド役の俳優・長谷川大(出演『空飛ぶ広報室』、『八重の桜』他)、Dr.ネガ役の俳優・谷本幸優(出演『パーフェクトブルー』、『イタズラなkiss Love in TOKYO』他)、Key.ジェーン役のモデル、女優IZUMI(ELLE girl等で活躍)が組んだバンドである。
園子温(52)は、『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』『恋の罪』『希望の国』『地獄でなぜ悪い』などの、人間の本質や様々な問題に向き合い観る者の心を奪う作品群は海外からの評価も高く、鬼才の映画監督として知られている。脚本家、詩人、パフォーマーでもある。昨今では『情熱大陸』といったTV番組でも特集され、国内外でその活躍ぶりに注目が集まっている。ライブ当日までその音楽性は明かされていなかったが、「ビジュアル系バンド」になる、として話題になっていた。現在、52歳の園子温がV系に挑むのは、それだけで衝撃的な出来事だが、そのパフォーマンスには安直にV系という言葉では片づけられない深さがあった。詩人としてのロック、魂の叫び、それは真新しいポエジーロックといってもいいだろう。
ライブの幕が開けると園子温が単独でステージに立ち、会場の大盛況ぶりに興奮を露わにした。V系の目の周りを黒く囲んだメイクを施し、髪を立て、黒いマントのような衣装をまとった姿に、思わずぎくりと驚いて立ちすくむ。園子温が会場の観客に向けて「皆さんの中からお題をもらってそれを曲にします」と伝えると、何人かの手が上がる。『男と女』『キリスト、あなたとあなたの関係』というお題が選ばれ、即興で作曲、作詞。続々とメンバーが登場するとすぐに演奏が始まる。その内容は園子温の頭に浮かんだ詩の叫びで、まるで自身の映画のように異彩を放つものであった。『男と女』では放送禁止用語を絶叫し会場を沸かせ、『キリスト~』では「あなたと僕の関係は、あなたとあなたの関係は、キリストよ、僕は分からないんだ、だって、あなたは一度だって何も答えてはくれなかったじゃないか」とシャウト。叫びあげる即興ポエムに観客は大喝采であった。
本編の一曲目は『ピカドン』という原爆についてのタブーに触れる内容で、園子温が普段から目を背けない“国の在り方について”を歌い上げる。「空がピカッと光ってドーンと鳴る原爆そのもののピカドンを映画のタイトルにすると、いろんなところからクレームがくる、ということでラブ&ピースという曲名にし映画のタイトルも変えた」と素直に明かす園子温。二曲目ではその『ピカドン』を基にJPOPサウンドにアレンジした『ラブ&ピース』となった曲の演奏が始まる。歌詞も「ピカドン、お前を忘れない」から「ラブ&ピース、お前を忘れない」になり、パワフルなサウンドに変貌を遂げた。この曲は映画『ラブ&ピース』の中で何度も歌われる。初披露の曲であるにも関わらずフロアは次々にピースサインが突き上がっていく。
その後に披露した曲は、これまで映画の中で使用された曲であり、映画『自殺サークル』の中ではROLLYが歌った、ナイフを突きつけられるような感覚に陥るエモーショナルな『スーサイドキス』。メロの危うさが美しい。続いて披露したのは映画『奇妙なサーカス』で歌われた『名前のない仔犬』。重たい歌詞が耳にこびりつき、暗闇を手探りで長い一本道を歩いているような感覚に誘われる。「名前のない仔犬が私を食べにくる、名前のない仔犬が私を連れていく」という歌詞が繰り返され、美しいピアノの旋律で届けられた。「デビューが新宿LOFTなんて早すぎる!」とのGuitar内藤愁のツッコミが入るが、メンバーの演奏は初ライブとは思えないほど堂々たるもので、いきいきと鮮烈に鳴っていた。
ライブの合間に、園子温が20年以上前に出版した詩集である『東京ガガガ』より抜粋された詩を息も絶え絶えに朗読する。ポエトリーリーディングだ。その後、映画『地獄でなぜ悪い』で役者陣が幾度も繰り返し歌っていた『全力歯ぎしり』をアドリブで披露すると、観客も一体となり「レッツゴー!」と叫ぶ。観客がその世界観と一体となっていく光景は圧巻であった。そして立て続けに披露されるのは、『地獄でなぜ悪い』劇中に流れた、海の底を漂うような、希望に向かって手を伸ばすような感情的なサウンドが放射される『The wall』。