荻野洋一の『ゴーストバスターズ』評:ポール・フェイグ監督がリブート版で捧げたオマージュの数々

荻野洋一の『ゴーストバスターズ』評

 こんどのゴーストバスターズは中年女性たちによって結成される。この性別の転換こそ、新『ゴーストバスターズ』の中心テーマだ。しかも彼女たちはいわゆるデキる女性たちではなく、どちらかというと隅に置かれ、成功から見放された女性たちだ。幽霊退治は彼女たちにとって敗者復活戦の色を帯びる。

 このリブート版『ゴーストバスターズ』の製作はトラブル続きで、難産の末にようやく陽の目を見たもののようである。もちろん作品はそうした困難をまったく感じさせない、じつにバカバカしく楽天性に満ちたホラー・コメディに仕上がっている。しかしながら、2008年ごろから準備が始まり、のちに製作中止に追いこまれた『ゴーストバスターズ3』を、ぜひ見てみたかったことも事実だ。

 クランクインさえできぬまま未完に終わった『ゴーストバスターズ3』は、1984年のパート1、1989年のパート2の正式な続編として企画され、監督アイヴァン・ライトマン以下、前作のゴーストバスターズチーム——ビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス——が再結集しつつも、若手も登用するというものだったそうである。しかし、ウェス・アンダーソン、ジム・ジャームッシュ、ソフィア・コッポラなどのいわゆる「作家の映画」の人にすっかりなっているビル・マーレイが脚本に難色を示して出演を辞退、製作が一時凍結する事態となった。その後、気むずかしいビル・マーレイは辞退を撤回。やるならもっとヘンテコな役にしてくれという本人の要望にもとづいて、主演のビル・マーレイが上映開始5分で死亡してしまい、以後はゴーストとして登場するという内容となったらしい。

 そんな事情で撮影開始が遅延し、公開予定日もどんどん後ろにずれていた2014年2月、バスターズのメンバー、ハロルド・ライミスが病死。アイヴァン・ライトマン監督は『ゴーストバスターズ3』の製作続行はもうムリだと降板を発表し、お蔵入りとなった。アイヴァン・ライトマンは、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011)の監督ポール・フェイグを後任に指名。後を託されたポール・フェイグのもと、企画は続編パート3としての性格を完全に捨て、オリジナル版へのオマージュ作として再始動となったのだ。

 今にして思えば、ポール・フェイグの監督起用は大成功だった。旧作のアイヴァン・ライトマン監督とダン・エイクロイドをプロデューサーとして巧みに持ち上げつつ、キャストもスタッフも、完全にポール・フェイグ組によって仕切られている。新ゴーストバスターズチームを結成する2人の中年女性を演じたクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシーはポール・フェイグ喜劇の常連コメディエンヌであり、クリステン・ウィグはシナリオライターとしてもフェイグ監督作『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』でアカデミー脚本賞にノミネートされている。ポール・フェイグは「他の人ならもっとうまくやれたのかもしれない」と謙遜しつつも、「僕に対してひどい言葉を投げかける人がいたら、 “ゴメン、でも僕のところに話が来たんだ” としか言いようがないよ」と語っている。

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 映画は主役のクリステン・ウィグが、終身雇用の講師職をめざしていたコロンビア大学から解雇されるところから始まる。幽霊研究がデタラメだと白眼視されたのだ。これはまさにビル・マーレイと同じ運命で、彼も30年前、コロンビア大学から放逐されたのである。ゴーストバスターズという存在は、大学のアカデミズムから爪弾きにされ、次いで行政からも詐欺師あつかいされる。日陰の存在に甘んじた結社にすぎないが、そこには暗さも卑屈さもないという魅力がある。彼女たち(旧作では彼らたち)のアッケラカンとした、少し冷淡なくらいなありようが、このシリーズの最大の魅力なのではないか。好きなものの研究と対峙に人生の時間を全面的に投入しているという実感が、ゴーストバスターズたちを社会的な成功や、家庭の幸福からまったく切り離された、ある倒錯的な愉悦へと到達させているためである。

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